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小山内 祥多「本郷台の家」|神奈川県建築コンクール住宅部門最優秀賞を受賞小山内 祥多「本郷台の家」|神奈川県建築…
2026.03.19
Interview
小山内 祥多「本郷台の家」|神奈川県建築コンクール住宅部門最優秀賞を受賞

Fortec Architectsの小山内祥多が設計した「本郷台の家」が、令和7年度神奈川建築コンクールにて住宅部門最優秀賞を受賞しました。「傾斜地における内外のつながり」というテーマに対するアプローチが高く評価されたこの作品には、小山内の「空間を立体で考える」という設計哲学が詰め込まれています。今回は、傾斜地やウッドショックといった背景から「本郷台の家」が生まれたプロセスについて語ってもらいました。


建築主と一緒にウッドショックに立ち向かったことで生まれた作品
ー様々な課題もありながら、建築主の生活に寄り添った空間づくりが評価に繋がりました。受賞の感想を聞かせてください。
今回の受賞は、設計者だけでなく、ウッドショックによる資材高騰という背景のなかでも家を建てるという判断をした建築主も評価されています。本郷台の家の大きな特徴は、30%の建蔽率と、それによって生まれた広い庭、開かれた庭から生まれる近隣住民とのコミュニケーションです。これらはいずれもウッドショックという制約のなかで生まれた特徴であり、資材高騰という課題に一緒に向き合ってくれた建築主に感謝していますし、そこを評価していただけたことを非常に嬉しく思っています。

建築を立体として考える
ー本郷台の家には、小山内さんらしい丁寧なつくり込みが光っていました。普段の設計で大切にしていることはありますか。
普段の設計で大切にしているのは、常に建築を立体として考えることです。当たり前のようですが、学生時代の設計課題では、平面図をもとに模型を立ち上げたときに「思っていた空間と違う」と感じることが少なくありませんでした。 そういった違和感に向き合うため、卒業論文ではオランダを中心にモダニズム建築を研究しました。そのなかで、平面図上は一見シンプルな構成であっても、断面や立体構成に工夫が凝らされ、豊かな空間体験が生み出されている建築が数多く存在することがわかったのです。モダニズム建築を参考にしながら断面・立体構成を意識した設計を実践するなかで、今では「建築を立体として考える」思考が定着しています。
当時、特に強い影響を受けたのが、オランダ人建築家のH・ヘルツベルハーによる「セントラル・ビヘーア」です。内部に足を踏み入れると、吹き抜けの通路に対して小さい部屋が立体的に張り出すように配置され、視線と動線が上下左右に交錯します。その空間体験は、建物の中にいながらも、まるで立体的な路地を歩いているかのような感覚を覚えるものでした。
本郷台の家においても、隣り合う空間同士の距離感を丁寧に調整しながら、吹抜けや開口部によって立体的につなぐことで奥行きのある体験を目指しました。その結果、渦巻き状に展開する五角形の平面をもとにした立体構成へとたどり着き、図面や写真から受けるコンパクトな印象にとどまらない「広がり」を感じられる空間をつくれたと思います。


渦巻き状の斜めの繋がりが、空間を立体的に繋ぐ
ーでは、改めてプロジェクトについて教えてください。建築主の要望やプロジェクトの変遷はどういったものでしたか?
建築主のもともとの要望は、「雑木の庭」「旦那様の趣味であるバイク1台のスペース」「奥様の書斎」の3つのみです。そこからさらに建築主の生活に踏み込み、バイクのメンテナンススペースと庭をセットにする考え方や、茶室と庭の一体空間を提案しました。一方、ウッドショックにより建築面積の見直しが必要になるなか、これらのスペースを残しながら空間に広がりを持たせることは難しい課題でした。そこで考えたのが、建物の床を渦巻き状に配置して立体的に空間を繋げる「斜めの繋がり」です。これにより渦巻き状の五角形の家が生まれ、建蔽率が大幅に抑えられた結果、より敷地が広く感じられるようになりました。

ー本郷台の家は、建蔽率が低い一方で、豊かな庭空間が特徴的です。このようなプランに至ったプロセスはどのようなものでしたか?
本郷台の家は、206.67㎡の敷地に建築面積60.31㎡の住宅を配置しています。当初は現在のプランより住宅部分が大きかったのですが、ウッドショックによる資材高騰を受けて建築面積を見直し、建蔽率が30%に満たない計画になりました。この制約によって自然と生まれたのが、ゆとりのある庭空間です。横浜は傾斜地が多いので擁壁と塀で囲まれた住宅が一般的ですが、建築主が雑木の庭にこだわっていたこともあり、元々あった擁壁を解体して敷地と道路をつなげ、庭空間を充実させて外に開くことにしました。結果、近隣住民との交流のきっかけが生まれ、建築主の生活のアクセントになっています。また、一年中花が咲くように樹種を選定し、季節の移ろいを楽しめる暮らしを提供しています。

ー空間構成や素材の選択ではどのようなことを意識していますか。
本郷台の家の内部空間は、吹抜けを中心とした渦巻き状の構成が特徴です。渦巻きの途中で旦那様の趣味であるバイクをショールームのように見せたり、渦巻きの終着点に奥様の書斎スペースを設けたりと、空間の立体的なつながりを利用して趣味・体験のシークエンスを生んでいます。空間構成の在り方についてはオランダの建築家やヨーロッパのモダニズム建築を参考にしながらも、日本の伝統的な家屋や農村歌舞伎の舞台のような暗い光でも美しく見える素材を採用し、奥行きのある大胆な空間構成を日本の暮らしに馴染ませることを意図しました。


ー空間の連続性において大きな役割を果たしている吹抜けが印象的です。吹抜けの考え方について教えてください。
渦巻き状の吹抜けに面する階段は、家の中の「へそ」のような場所であり、1階の個室にも視線が届くような位置関係になっています。こういった仕組みにより、誰がどこにいるのかを雰囲気で感じられるようにし、住まい手が暮らしやすい距離感を生んでいます。1階は各個室を集めて庭と繋げる一方で、2階にはパブリックな生活空間として広いリビングダイニングを配置しました。小さい空間を回ってから2階の大きな空間に上がる構成となっており、メリハリのある空間構成としています。2階の無柱大空間は、奥様が料理をしながらテレビを見るという習慣に寄り添った結果、構造設計者の協力によって実現したものです。立体構成にこだわった今回の作品では、吹抜けが空間と生活の両面で中心的な役割を果たしています。

ー今回の作品は、小山内さんが初めて設計から施工まで担当したプロジェクトです。今後のキャリアにおいてどのような位置づけになりそうですか?
前職も含めていくつかのプロジェクトの設計に携わってきましたが、異動やプロジェクトの中止などにより竣工に立ち会う機会に恵まれませんでした。設計者としては歯がゆい時期が続きましたが、初めての竣工作品が歴史あるコンクールで評価され、自分の設計思想・プロセスが間違っていなかったという自信につながっています。今回は、建築主の暮らし方と「建築を立体として考える」という私の設計思想が、うまくマッチしたことで豊かな空間を生み出せました。これからも、建築主に寄り添いながら空間的な豊かさで価値を提供していきたいと思います。

要望や制約のなかでどのような付加価値を生み出せるか
ー今後はどのようなことに挑戦していきたいですか。
これまでのキャリアでは、研究所や物流倉庫といった「機能性」を強く求められる建築の設計が多かった印象です。これらの施設では、事業主自身も機能性以外の要素に気を配れないケースが少なくありません。しかし、中長期的な視点で事業全体を見ながら施設の存在意義を考えることで、その施設の方向性は大きく変わります。こういった付加価値を提供するため、単に要求性能を満たすだけの建物ではなく、空間としての豊かさや体験の質をいかに両立できるかを常に考えてきました。
これからも、実務で培っていく合理性や技術的知見を基盤としながら、用途や規模を問わず、「要望や制約のなかでどのような付加価値を生み出せるか」ということを設計のテーマとして深めていきます。建築家として目指すのは、与えられた条件に受動的に応える存在ではなく、初期段階から事業・社会の文脈に関わり、建築の在り方やプロジェクトの進め方そのものを提案できる存在です。
機能やコストの最適化に収束しがちな時代だからこそ、建築が人の感覚や行動に与える影響を丁寧に掘り下げていき、愛され長く使われる空間を社会に届けていきたいと考えています。
