Journal /
Fortec Architects(株)大江氏・川島氏インタビュー~美しさと合理性を繋ぎ、少数精鋭で成果を出し続けるデジタル戦略~Fortec Architects(株)…
2026.04.26
Interview建設DX
Fortec Architects(株)大江氏・川島氏インタビュー~美しさと合理性を繋ぎ、少数精鋭で成果を出し続けるデジタル戦略~

目次
※本記事は、建設DX研究所の記事に一部編集を加え、転載しています。
はじめに
今回は、Fortec Architects株式会社代表の大江太人氏、取締役COO/ファウンダー・アーキテクトの川島宏起氏にお話を伺います。
Fortec Architects株式会社は、「経営×建築」をコンセプトに掲げ、建築資産の課題解決と価値創造を実現する戦略デザイン&建築設計ファームです。
これまで建設DX研究所のインタビュー記事にて数々の対談をリードしてきた大江氏ですが、今回は自ら「語り手」の一人となり、取締役COOの川島氏と共に登壇。国内外の第一線で培われた二人の知見から、建築の価値を最大化するための「デジタルとビジョンの在り方」を紐解きます。
過去にお二人には、「ハーバード大学による最先端建築DX教育~日本における建築DX普及のヒント」と題してインタビューにお答えいただいていました。

前編ではまず、川島氏からお話を伺います。「自然と人間の関係を豊かにする建物のデザイン」を追求するために、さまざまな環境下に身を置かれてきた歩みを軸に、建築におけるデジタル技術の変遷について、建設DX研究所 代表 岡本が迫ります。
■プロフィール
川島 宏起
Fortec Architects株式会社取締役 COO /ファウンダー・アーキテクト
東京大学工学部建築学科、同大学院工学系研究科建築学専攻卒業。株式会社竹中工務店にて約10年にわたって生産施設の建築設計に従事。工場・研究所など、高い機能性が求められる建物の設計に強みを持つ。建築設計を専門とし、そのデザインは多数の受賞歴を持つ一方で、学生時代には設備系の研究室に所属し、基礎研究を行いながらサステイナブルデザインを学ぶ。太陽・風等の自然の力を生かした省エネルギー建築のデザインが強みで、その専門性の高さから東京大学、慶応義塾大学、早稲田大学、東京理科大学で教鞭を取る。海外留学・実務経験を活かし、建築・都市分野において、幅広い視点でのプロジェクト推進をバイリンガルで行うことができる。一級建築士。
大江 太人
Fortec Architects株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architects株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。建築と経営の視点を掛け合わせて、建築資産の課題解決と価値創造を行っている。過去の主要プロジェクトとして、「フジマック南麻布本社ビル」「ヤマト科学技術開発研究所」「プレミスト志村三丁目」他、生産・商業・居住施設など多数。一級建築士。
日本・海外でのアナログからデジタルへの変遷を経験
岡本:まずは、川島さんのこれまでのキャリアを教えていただけますでしょうか。
川島:私は、東京大学・大学院で環境建築デザインを学んだ後、竹中工務店の設計部に入社し、主に工場や研究所などの生産施設の設計に関わってきました。学生時代には、ザハ・ハディド・アーキテクツ出身の建築家が主催する「MAD Architects」でインターンを経験しています。また、竹中工務店時代にはハーバード大学デザイン大学院に留学し、ボストンの建築事務所「Payette」でもインターンとして経験を積みました。
岡本:大学の研究室、大手ゼネコン、ハーバードデザインスクール、海外設計事務所と、さまざまな場に身を置かれてきたんですね。
川島:はい。意匠系・環境系・都市系を横断的に学んできましたが、私が建設DXにおいて大事だと考えているのが、「業務フローが最適化され、作品に展開されている」ということです。アナログ・デジタルに関わらず業務を助けてくれる技術やツールは多くありますが、それを「どのように使うか」というビジョンがなければならないと感じています。

Fortec Architects株式会社 川島 宏起氏
アナログな手法で学んだ経験・体験が土台に
川島:まずは、私のこれまでの学びを順を追ってご紹介しながら、「ツール×ビジョン」の重要性についてお話しできればと思います。
私は2006年に東京大学工学部建築学科に進学しました。当時は、アナログな手法で設計をするのが一般的で、私も模型を作って検討したり、模型写真をもとにプレゼンテーションをしたりと、手を動かしながら学びを深めていきました。そのころの体験や手法は、今でも私の考え方のベースになっています。


東京大学時代に模型やドローイングで構成したプレゼンテーション
川島:また、現場でデータを収集していく「実測・実験・研究」からも大きな学びを得たと思っています。私は、学生時代から環境設計を取り入れた建築デザインに興味を持っていました。所属していた大学の研究室では、光・熱・風の建築環境に与える影響を解析したり、実験用建屋の自然室温や蓄熱性能を実測する基礎研究に取り組みました。
なかでも、北海道・旭川から沖縄・宮古島に至るまで、全国に建てられたエコハウスの室内環境を実測した研究は印象に残っています。サーモカメラを使って撮影したり、室温を実測したり、ときには寒さに凍えて風邪を引いたりして検証をした経験から、環境シミュレーションを用いた事前検証の重要性を身を持って感じました。

「21世紀環境共生型住宅のモデル整備による建設促進事業」(環境省)をもとに行った実測・研究
美しいデザインを生み出すためにデジタルを駆使
川島:私の学生時代は、建築でのデジタル活用も盛り上がってきたころでした。そんなとき、中国・北京に本拠地を置く設計事務所「MAD Architects」のインターンとしてデザインを学ぶ機会を得ました。MAD Architectsは、ザハ・ハディド氏に師事していた馬岩松(マー・ヤンソン)氏らが設立した設計事務所で、美しい曲線・曲面が印象的な建築物を多数手がけています。
私は、環境シミュレーションをもとに合理性を重視した快適な建物を生み出すための研究に取り組んでいましたが、その合理性を美しいデザインへ昇華するためにはどうすればいいのだろうか、と考えるようになっていました。それならば、とことん「美しさ」を重視している事務所で経験を積んでみようと思い、MAD Architectsでのインターンを決めました。
MAD Architectsで馬氏から指示されたのは、「Just Make it Beautiful(ただ、美しくあれ)」が基本でした。私はさまざまなプロジェクトでひたすら美しい空間を生み出すことに注力しました。
その一例が、ゴルフリゾートに隣接するラグジュアリーヴィラの設計です。馬氏からのリクエストは「松林の中にゆるやかに霧が下りてくるような建築」でした。硬くて重い素材を使って、どのように霧のようなイメージを作り出すかに苦戦しました。
当時利用していたのが、Autodesk社のモデリングツール「Maya」です。Mayaで自由曲面をモデリングし、霧のイメージを建築で表現できるように検討しました。

Mayaでのモデリング

霧が広がるようなカーペット形状のデザインを数十パターン作成した
岡本:「霧」というモチーフについて、とても多くのパターンやデザインをシミュレーションされたのですね。
川島:ひたすらモデリングと検証を繰り返した結果、あるとき突然ひとつのデザインが降りてきました。私自身も大きな手応えを感じましたが、周囲の人々の反応もガラッと変わる過程を体感しました。

松林の木漏れ日や水、周りの草花から、自然の豊かさを感じ取ることができる美しい風景に

MAD Architectsでは「泡」をイメージした建築にも挑戦。手探りで検証を繰り返した

最終的に完成した「泡」をイメージしたヴィラのデザイン
川島:「MAD Architects」にとってのデジタルツールは、合理性や効率化などの観点ではなく、デジタルツールを駆使した上で「その先にどんな美しい風景が表れるか」が重要視されていました。「自分たちが自信を持って生み出したデザインは、必ず世界のどこかで実現する」そんな強いビジョンを感じた経験は「ツール×ビジョン」の考え方にも大きな影響を与えています。
快適な空間を生み出すために環境シミュレーションにもデジタルを活用
岡本:大学時代の環境シミュレーションの研究や、「美しさ」を追求するMAD Architectsでの経験は、どのように繋がっていったのでしょうか?
川島:純粋に美しいデザインを追求する一方で、私が専門としているコンピューターによる環境シミュレーションを用いた建築デザインにおいて、同様の「美しさ」を追及するアプローチはどのように取れるのか、について考えるようになりました。
学生時代には、環境シミュレーションを行う団体を立ち上げ、ル・コルビュジエの住宅に対する風シミュレーションを行いました。ル・コルビュジエが手がけた9つの住宅を対象に、風はどのように流れていくのか、どこが快適に感じられるのか、さらに快適性を広げるには、という観点でシミュレーションと検証を行いました。この成果をまとめた本が「ル・コルビュジエの住宅と風のかたち」として新建築社から出版されています。この本によって、コンピューター上の環境シミュレーションの「合理性」と建物の「美しさ」とを結び付け、より多くの人にその価値をつたえることができました。

Flow Designerを使ってバルセロナの住宅のシミュレーションを実践。
シミュレーション結果を感覚的に理解できるような色使いにこだわった。
川島:MAD Architectsで学んだ美しいデザインと、大学で経験してきた環境シミュレーション、この2つの経験を活かしたのが、竹中工務店で手がけた製薬会社の研究所建設プロジェクトです。
建設地が多摩川の雄大な景色を望める立地だったため、研究所からもオフィスからも景色が楽しめるような配置で設計を進めました。ただ、川沿いは何も遮るものがないため、室内に日光が差し込んでパソコンが見づらくなったり、逆に日光を遮ってブラインドを閉めると景色が見られなくなってしまう、といった課題がありました。
そこで、「Rhinoceros」というモデリングツールを用いて建物外部をとりまくルーバー(羽板)の角度を変えていく日射シミュレーションを行いました。日射遮蔽率を検討しながら最適な角度を割り出し、ルーバーの形状も同時に最適化していきました。

ルーバーの角度を変えて行った日射シミュレーション

日射遮蔽と外へ開くことを両立するために検討を繰り返した

多摩川を望むオフィス・ラボの全景。鱗状に配置された白いパーツがルーバー。
川島:結果として、帆船のような雄大な外観デザインを実現しつつ、日射の影響を最小化しつつ多摩川の景観を眺められる快適なオフィス環境も提供できる設計となりました。このように、初期のデジタルツール活用においては、業務効率化よりも「いかに新しいものを生み出せるか」というビジョンのもとに使われることが多かったように思います。
他分野のデジタルツール活用によって「分野横断的な思考」を獲得
岡本: キャリアの中でも大きな転機となったであろう、ハーバード大学デザイン大学院(GSD:Graduate School of Design)への留学についても伺わせてください。
川島:竹中工務店時代、社内制度を利用して2年間GSDに留学をしました。GSDは、ランドスケープ、不動産、環境、都市計画、都市デザインなどをテーマに建築を教えています。日本の建築教育では「建物をどうつくるか」が重視されますが、GSDは「人間の居住環境をどうつくるか」を重視した教育を実践しています。
GSDでは、環境シミュレーションを軸にしながら、建築や環境にとらわれない「分野横断的な思考」を学べたことが私にとって大きかったです。建築とさまざまなシミュレーションツールを掛け合わせて新しい価値を生む取り組みにチャレンジしました。

GISで都市をビジュアル化し、都市のあり方や建築のデザインを議論する
川島:その一例が都市計画のプロジェクトです。このプロジェクトでは、建築のモデリングツールに加えて、交通量シミュレーションやGIS(地理情報システム)のデータを活用しました。
あるエリアの再開発を検討するプロジェクトだったのですが、そのエリアには新幹線のような交通網によって道が分断されている箇所がありました。私は再開発にあたって、分断された箇所の近隣にあるモノレール駅の位置に着目しました。

GISデータに基づき、道のネットワークと人口分布から、駅の乗降者数の増加を計算した
私が提案したのが、モノレール駅を200メートルほど移設し、道が分断されている箇所と接点を作るプランです。GISのデータや人口データ、人流解析ツールなどを用いて、乗降客数が3倍になるプランを検証しました。

都市計画、建築、環境、ビジネス、多角的な面から実現可能な計画であることを実証。
GSD内での最高賞金額の賞を受賞した。
川島:その際、モノレール駅周辺の再開発プランも併せて提案しました。私の得意とする環境設計に加え、建物のエネルギー効率や不動産収益シミュレーションまで、さまざまなデジタルツールを活用して検証を重ねました。最終的に、15年でペイオフ(投資回収)するような建設フェーズ・不動産投資のプランを提案でき、非常に高い評価をいただきました。
前編では、川島氏のキャリアを軸に、アナログからデジタルへの変遷、そして「美しさ・合理性・経営」をデジタルがいかに繋いできたかを伺いました。
後編では、これらの経験を経て、現在Fortec Architectsでどのような「建設DX」を実践しているのか。そして、デジタル技術がもたらす建築業界の未来像について、さらに深く切り込みます。
以下、後編
日本とアメリカにおけるBIM活用の違い
岡本:前編では、東京大学や海外設計事務所、竹中工務店、ハーバードデザインスクール時代の学びについて伺いました。引き続きアメリカ留学中のお話から聞かせてください。
川島:はい。ハーバード大学デザイン大学院(GSD:Graduate School of Design)在籍時代には、2018年にAIA(アメリカ建築家協会)の「Best Firm Award」を受賞した全米トップクラスの建築事務所「Payette」でのインターンを経験しました。
Payetteは私が専門分野としている環境設計を得意とする事務所です。社内に環境設計チームを設けていて、デジタルツールを活用したエネルギーモデリングを実践しています。実際に、Payetteが設計したビルのエネルギー消費量は、10年間で3分の1に減少したというデータも出ています。また、デジタル活用の先進性だけではなく、100年以上にわたって培ってきた歴史とノウハウから生み出される精緻なデザインにも心を動かされました。

川島:Payetteでは、BIMソフトウェアのRevitを軸に業務フローが最適化されており、ここでの経験が当社のBIM活用のベースになりました。まずは、アメリカと日本の設計体制の違いについて説明します。
日本の場合、設計チームにはグループリーダーとデザイナー以外に、CADオペレーターがいることが一般的です。一方、PayetteにはCADオペレーターは存在せず、全員がデザイナーでした。全員が設計とBIMで作図をしていたので、誰もが自然とBIMに触れているという環境でした。
Payetteでは、私たちが作成した建築モデルのなかに、構造や設備、家具など、専門コンサルタントが作成したモデルが重なり合って、1つのBIMモデルで総合的な作図ができるようになっていました。
岡本:設計に関わる全員がBIMを使うことが当たり前なんですね。
川島:はい。BIMで図面を描くためのファミリ(同じ性質を持つ形状のグループ)やテンプレートも充実していました。お互いが持つ情報やノウハウを共有し、全員でレベルアップを目指す文化も根づいていました。さらには、「BIMを使わない外部会社との取引をしない」という方針を徹底していました。
岡本:そのほかにも日本とアメリカでの違いはありますか?
川島:日本とアメリカでは、そもそも設計図に大きな違いがあります。アメリカは平面詳細図や矩計図(かなばかりず:建物の断面図)といった、総合的に建築全体の納まりを確認する図面(以降、総合図)を書かないことが一般的です。平面詳細図もあくまでも部分詳細のロケーションを示す「見取り図」といった認識で、日本でいうところの平面詳細図とは言えないような水準です。
Revitは、基本的にはアメリカの設計文化にフィットするように開発されていますので、日本のような緻密な平面詳細図や矩計図を簡単に描けるようには開発されていません。PayetteでもBIMが苦手とする総合図は描かない割り切った図面構成となっていました。
また、日本の場合、施工会社との調整は設計段階で終わっているのが理想とされていますが、アメリカではその調整も行う文化は日本よりは薄いように感じます。実際は着工時の調整不足の部分が多いと考えられ、生産効率が悪いとも言えます。
岡本:日本では施工段階で手戻りが起きないような調整が重要視されますね。
川島:そうですね。日本では流れるように工程を組んでいくのがスタンダードですが、海外ではひとつの工事が終わったら次の業者が来て現地調査し、そこから資材を手配したりするのも普通です。施工期間が長くなるのも当たり前で、建設費も日本の2倍かかるものもあると言われています。
日本の設計品質・施工品質は、総合図の作り込みと設計・施工間の調整に支えられていると言っても過言ではありません。ただ、BIMは総合図の作成にフィットしていないので、BIMが設計品質や施工品質、工期短縮の向上に、日本の建設文化・仕事の進め方においてどこまで寄与するかどうかについては疑問が残るというのが正直なところです。
情報統合ツールとしての完成度を高める
岡本:では、日本ではどのようにBIMを活用すればいいのでしょうか?
川島:BIMは、Building Information Modelingの名前の通り、情報管理に長けたツールです。ですから「情報統合ツール」として使うことが一番の活用法だと考えています。
BIMの情報統合ツールとしての力を実感したのが、竹中工務店時代に担当した大手製薬会社の研究所建設プロジェクトです。研究所の建設においては、各部屋ごとにコンセントの位置や配管の位置などを明記した各室仕様書を用意します。そのプロジェクトは延床面積で30,000平米以上の大型研究所で部屋数は約200〜300室あり、仕様を取りまとめるために膨大な作業と時間が必要でした。ですが、メインの担当者は私含めて1〜2人という状況で、BIMを活用する以外の選択肢はありませんでした。
具体的には、仕様書のExcelデータ、設備設計のCADデータ、実験什器の詳細データなどを各方面から集め、Revitに統合しました。その上でゾーニング図と各室仕様書を自動出力できるようにプログラミングをしました。従来はすべての情報をPowerPointにまとめて、オペレーターが一部屋ごとに情報を貼り付けていたので、BIMによって大幅に業務効率化を図ることができました。

川島:そのほかにも、仕上げ種別や変動範囲、断熱範囲、建具配置など、情報として置き換えられる図面はすべてBIM化していきました。一度BIM化してしまえば、例えば建具が1,000個あっても、「一覧表にして積算してください」と指示を出せば、ざっくりした見積もりを簡単に出力できます。建具の種別を効率的に指示するためのシンプルな記述を検討して、建具表として自動で抽出できるようにしました。
BIMの得意分野・苦手分野を把握して作業を切り分ける
川島:下記の図は、アメリカと日本でBIMに携わってきた私の経験をもとに、BIMが得意とする領域についてまとめたものです。

川島:この図の横軸は「設計フェーズ(基本計画、基本設計、詳細設計)」、縦軸は「作成すべき図面の量」を表しています。設計が進むにつれて、当然ながら図面の量は増えていきますが、その中でBIMが特に強みを発揮する作業が黒い部分です。
具体的には、上記に挙げている各室仕様書や仕上表、建具表など、情報と紐づく範囲です。一方で、平面詳細図や部分詳細図などは、情報管理ではなく形状を描く部分なので正直BIMはあまり得意な領域ではありません。デザイン検討も同様です。部屋やオブジェクトに属性情報を与えて、作図を効率化していくことがBIM活用の目指すべき姿でしょう。
ですので、当社ではBIMの得意分野・苦手分野をしっかりと切り分け、全体の作業を最適化するアプローチを実践してプロジェクトに取り組んでいます。特に当社は、詳細設計・施工を担当する建設会社との協業が多いため、上図の黒い部分の作業効率化に注力しています。
ただ、単にデータさえあれば、設計ができるわけではありません。どのような建築を目指すのか、どのような空間を実現したいのかという「ビジョン」があって初めてツールを使いこなす意味が生まれると考えています。
私も建物のビジョンをつくったり、デザインをする部分は、スケッチを描いたり、模型を作ったりとアナログに手を動かして構想を練っています。アナログとデジタル、2つを掛け合わせることが重要だと思います。
社内のノウハウ・アルゴリズムのデジタル蓄積にも注力
岡本:貴社では、15人ほどの少数精鋭で80を超えるプロジェクトを動かしていると伺っています。事務所の運営において、デジタルを活用して取り組んでいることがあればぜひ教えてください。
大江:現在は、Notionを活用してプロジェクト管理を行っています。メンバーのアサイン状況やプロジェクトの進捗をタイムライン形式で可視化して管理しており、各プロジェクトの詳細を入力することで、現在のステータス、各担当者の動きがすべて記録される仕組みになっています。また、Salesforceとも紐づけ、契約期間とプロジェクトのアクティブ期間がNotionのタスクと一元的に管理できるようにし、メンバーをアサインする上での参考にしています。
この取り組みの中で、私が最も意義を感じていることが「ノウハウのデジタル化」です。当社の業務フローをはじめ、「こんな顧客ニーズにはどう動くべきか」というプロセスをかなり細かく言語化しています。これまで多様なクライアントの課題に向き合い、さまざまな仕事の「型」を作ってきたので、それをデジタルなナレッジに落とし込んでAIで引き出し共有しているイメージです。
岡本:単なる進捗管理に留まらず、建築設計における「経験」や「型」そのものを資産化されているのですね。
大江:はい、例えば、耐震調査であれば「どのようなタイミングでニーズが発生するのか」という起点から、目的、所要時間、各プロジェクトの事例までを言語化し、網羅的に整理しています。こういった情報を蓄積しておくと、Notion AIに「耐震改修の進め方を教えてください」と投げかければ、社内のナレッジに基づいた回答が即座に得られます。
今は、これまで各メンバーに属人化していたノウハウ、いわゆる『暗黙知』を類型化し、ナレッジを集約している段階と言えます。Notion AIを参照することで、一般的なAIツールを利用するよりも、はるかに具体的で詳細な情報が得られるようなデータベースにしていきたいと考えています。例えば、世界に開かれたオープンなAIは、色々な文献の参照によって内容が一般化してしまい私たちの思想を色濃く反映できないため、社内ナレッジをAIにクローズドに学習させることが、設計・提案クオリティの担保にもつながっていくと考えています。
川島:AIの進化によって、最近はプログラミングやアルゴリズムの重要性が以前ほど語られなくなったようにも感じます。ただ、AIを活用する上でも、「思考のプロセスや仕事の進め方」におけるアルゴリズムをデジタル化しておき、AIで実行するのが非常に重要だと感じています。
AIは、大量のデータから『なんとなく80点』の回答をすぐに出すのは得意でしょう。しかし、当社の社員が追求するべき『100点の精度』は、自分たちでノウハウをアルゴリズム化しておかなければ実現できないと考えています。
岡本:「言語」で記述するから、必要な情報を抽出できるのですね。
大江:そうですね。これまでは、標準書やマニュアルを作ろうとすると、専門知識のある人が『この内容は第◯章に書くべき』『この情報も付与すべき』などといった全体構成を整理していましたが、AIを活用すればそのような整理は必要ありません。新しいプロジェクトの事例をフォーマットに沿って入力するだけで、AIがこれまでの事例を横断的に読み込んで必要な形でアウトプットを出してくれます。
例えば、「建設投資の悩み」といった漠然とした課題に対する具体策も、これまでのプロセスを言語化して蓄積しておけば、AIが壁打ち相手になってくれます。経験の浅いメンバーでも、まずはAIと対話しておけばクライアントとの議論にも備えられますし、勉強にもなるでしょう。AI・DX時代の建築設計事務所として、今後も新しい試みにどんどんチャレンジしていきたいと思います。
おわりに
前後編にわたり、川島氏と大江氏に建築業界のDX、そして「ツール×ビジョン」の重要性を伺いました。デジタルを単なる効率化の手段ではなく、建築の質を高め、組織の知恵を継承するための武器に変える。Fortec Architectsの挑戦は、これからの日本のものづくりの進むべき道を示しているようです。

