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ポスト・オフィス・スクエアポスト・オフィス・スクエア
2017.08.02
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ポスト・オフィス・スクエア
※本記事は、取締役COOの川島がハーバード大学デザイン大学院(GSD)留学時代のブログに一部編集を加え、転載しています。
ボストンの中心部に、大企業や巨大銀行の集まるフィナンシャル・ディストリクト(金融街)がある。その中で、中央郵便局の目の前にあるのがポスト・オフィス・スクエアだ。アメリカの都市計画・ランドスケープの歴史上の生ける伝説とも言うべきプロジェクトである。
7月の英語の授業では、ボストンやアメリカの建築・都市計画・ランドスケープの名作についての文章を読み、英語の勉強と建築系の勉強を両立する。その中の一つとして取り上げられたのが、ポスト・オフィス・スクエアだ。ポスト・オフィス・スクエアは一見するとただの綺麗な公園で、周辺のビジネスマンや観光客がおしゃべりをしたり、休憩したりする場所だ。授業で勉強する前に訪れた時は、綺麗な公園だなとしか思わなかった。
何が特別かと言うと、その下に、地下7層の1400台収容の駐車場があることである。そして、30年前にはまだその場所に地上4層の駐車場があったことだ。プロジェクトは、1981年に実業家のノーマン・B・レベンサルがポスト・オフィス・スクエアに面してホテルを建設したところから始まる。当時のポスト・オフィス・スクエアは、老朽化したRC造の駐車場が体育館裏のような雰囲気を放ち、周りのビルからはバックヤードの扱いを受けていた。
レベンサルは、ホテルの前を綺麗にしたいという単純な理由から着想したのかもしれない。彼はボストン市に対し、駐車場を壊して地下化し公園にすること提案した。その時、ポスト・オフィス・スクエアの土地は市の所有で、別の実業家が40年リースすることで駐車場を運営していた。地下化するアイディアは良いかもしれないが、ボストン市にそんなお金はないし、リース期間も終わってない。そこでレベンサルは彼に賛同する、ボストンに籍を置く大企業のトップを集め、「フレンズ」という名の組織を立ち上げた。
フレンズの構成員は参加企業の社長のみで、その数は一気に20以上となった。各社から1億円以上の寄付をつのることで、既存の駐車場の買収と、地下7階建ての駐車場の建設の頭金を準備した。ただ、100億程度の総工費を寄付のみで払えるわけはなく、完成した駐車場のレンタル代からローンを組んで支払う計画となった。プロジェクトのスピードは速く、2年間で解体から地下駐車場の建設、ランドスケープの整備まで行われ、1990年に竣工を迎えた。
公園のデザインは、あたかも昔からそこに存在していたかのようなものを目指したという。地下駐車場へのルートは、公園の中の人からは存在がわからないよう巧妙に隠されている。駐車場の換気のための吸気口、廃気口もそれと言われなければわからない場所にある。地上のカフェの建屋と、地下駐車場に降りるエスカレーターの建屋のデザインを統一することで、地下に用がある人でないとエスカレーターの存在にすら気づかない。公園の中心にある噴水は、1年間のうち7ヵ月が冬のボストンでは止まっている期間が多くなるため、水がなくても成立するデザインにまとめられた。
公園ではヨガ教室やコンサートが定期的に開かれている。その参加費はすべて無料で、ヨガの先生やオーケストラへの給料は地下駐車場の賃金からまかなわれている。芝や植栽のメンテナンス費、ローンの返済も全てそこから賄われているのだ。なんと、寄付は一切受け付けていないという。それでいて、ポスト・オフィス・スクエアの環境がボストンの都市・人々にもたらす利益は尋常ではない。こんな完璧でサステイナブルなプロジェクトは見たことがない。
今後もポスト・オフィス・スクエアは、竣工から50年、100年経っても変わらずその場にあり続け、都市と人々に貢献し続けるのであろう。こんなプロジェクトに携わりたいものだ。