Journal /

建設ファイナンスDX 〜Built Technologiesの挑戦建設ファイナンスDX 〜Built Te…

2023.04.07

建設DX

建設ファイナンスDX 〜Built Technologiesの挑戦

建設ファイナンスDX 〜Built Technologiesの挑戦

事業の元手となる資金を確保するためのファイナンスの仕組みはビジネスの根幹を担います。建設業界も例外ではありません。建設プロジェクトの特徴として、投資額が大きく期間が長い点が挙げられます。そのため、工事を行うための資材や機材の費用、作業員の給与や外注費など多額の資金が必要となる一方で、竣工までの期間が長いため、施主からの入金に先行して多くの資金が必要となることが一般的です。

また金融機関にとっても、建設プロジェクトのリスク評価は簡単ではありません。製造工程が同じで完成までの期間が読みやすい製造業と異なり、天候や地盤などの周囲の環境条件など外的要因に左右されやすい上、一品生産で同じ製造工程とならない建設工事に関しては、個別のリスク判断が難しいためです。

融資に限らず支払に関する悩みも根強くあります。工事一つをとっても何十〜何百という下請業者との契約締結や支払証明書などの書類発行業務が発生するため、全体のサプライチェーンに資金が行き渡るまでに膨大な事務工数と時間が費やされることになるのです。

本記事で紹介するのは、建設ファイナンスに特化したサービス「Built」を展開するBuilt Technologiesです。従来は膨大な書類のやりとりで処理されていた財務・経理のプロセスを1つのプラットフォーム上で統合したことが同社の最大の特徴です。

Built Technologiesの概要

CEOのChase Gilbertは、レストラン業界でオペレーターとしての経験を積んだのち2014年にBuilt Technologiesを創業しました。DXが進んでいなかった外食業界において、ITシステムを活用しながら結果に結びつけていく重要性を学び、さらにDXに遅れを取っていた建設業界での起業を決意しました。
建設業界向け融資を扱う唯一のソフトウェア会社としてこれまで6度に渡り合計3.2億USドル(約450億円)の資金調達を行い、米国銀行協会(ABA)が公式に認めた「唯一の建設融資を扱うソフトウェア会社」として確固たる地位を確立するに至りました。

事業戦略として、最初は金融機関が顧客ターゲットの中心でしたが、建設業界内のプレーヤーにもサービスを拡充し、多方のステークホルダーを繋ぐプラットフォームへと進化を遂げた点が特徴です。各顧客タイプがどのようにBuiltのサービスを活用しているか見ていきたいと思います。

顧客タイプ1:建設会社

金融機関から融資を受けたり、多くの下請業者と取引を行うためには膨大な書類のやりとりが必要となります。金融機関に対しては、会社やプロジェクトの情報を提示し、融資を受けるために適格であることを証明しなければならず、下請業者に対しては契約書の締結から支払証明書類の発行まで多くの書類・事務作業が必要でした。財務・経理に関するこれらの事務的作業はこれまで労働集約的に行われてきました。Builtを利用すると、全てのやりとりが1つのプラットフォーム上で可視化され、一元的にデータ管理が行えるため、わざわざメールや電話で取っていたコミュニケーションを削減することができます。工期内に高い品質の工事を仕上げる、という建設会社の本業に、より多くのリソースを集中できるようになるのです。

顧客タイプ2:金融機関

前述した通り、大量生産型の製造過程と異なる建設工事のリスク評価は難しいとされてきました。しかし、Builtのプラットフォーム上には建設プロジェクトの事業主情報や建設請負会社の情報などが一元的に集約されているため、これまで様々なステークホルダーから個別に情報を集めなくてはならなかったプロセスが簡略化されます。また工事に関する情報がタイムリーに更新されることで、建設融資のリスク管理にも役立てることができます。
このように、融資の貸し手に「簡単に安全に迅速に」お金を貸す機能を提供することで、建設業界全体に効率的な資金供給を可能としているのです。

顧客タイプ3:アセットマネージャー

建物の所有者、さらにはその資産の運用を受託されているアセットマネージャーに対しては建物ができるまでの融資のマネジメントから工事中のリスク管理、さらにはその先の保有中の資産状況までを一元管理できるシステムを提供しています。従来のアセット管理ツールとは異なり、建設段階からより解像度の高いプロジェクトリスクの管理をすることで、プロジェクト発足時に狙ったリターンを確保しやすくなります。

以上のように、建設業界のエコシステムの中の様々な関係者にメリットをもたらしているBuiltのサービスですが、次の章では特に建設会社へ提供されているサービスの詳細を紹介します。

建設会社向けのサービスの詳細

下請への請求書発行(Subcontractor Invoicing)

規模の大きな工事になると何百社もの下請会社が関わることになります。また請求書の発行タイミングも下請の工種(工事の種類)によってまちまちで、工事の工程と連動するため、「いつ」「いくら」の請求書を発行するかを確認しつつ、紙やメールで請求書や納品書をやりとりをすることに膨大な工数が割かれていました。Subcontractor Invoicingの機能は1つの画面で支払スケジュールの管理をすることができ、プラットフォーム上から直接下請会社に書面の送付が可能です。

画像
特定の期間に発行すべき書面を一覧表示できる。
それぞれの請求項目は工事の進捗状況と連動している。
(出典:Built Technologies社HP

規則遵守に関する書類のトラッキング(Compliance Tracking)

下請と契約を締結し、支払いを進めていく上で、「相手の会社が適切な保険に加入しているか」「工事を行う上で適切な許可を取得しているか」などをトラッキングする必要があります。Builtのプラットフォーム上では工事の規模や種類に応じて必要な証明書類の種類を把握した上で、それぞれが「規則に準拠しているか、否か」を一覧で把握することができます。また、保険や許可などは更新期限があり、格納された膨大な書類がいつ更新されるべきなのか、自動で通知が発信されます。

画像
会社名と工種、書類の審査状況が一覧表示されている
(出典:Built Technologies社HP

リーン・ウェイバー管理(Lien Waiver Management)

リーン・ウェイバーとは、「下請会社が提供した工事や材料の対価として支払いを受け取ったことを証明する領収書」のことで、アメリカでは建設工事の中で発生する金銭の授受に対して発行が義務付けられています。工事の規模が大きくなればなるほど、発行されるリーン・ウェイバーの枚数は膨大となり、全書類のステータスを管理するために多くの時間が費やされることになります。Builtのプラットフォームでは、下請会社へ発行された請求と結びついてLien Waiver管理ができるようになっており、メールなどでのやりとりが一切不要となっています。

画像
発行された請求書とともにリーン・ウェイバーを管理することができる
(出典:Built Technologies社HP

電子送金(Electronic Payment)

上述したリーン・ウェイバーの発行後、ACH (小口決済システム) 方式で銀行間の送金を行います。簡易な操作で送金が行われるようになっており、リーン・ウェイバーの発行→下請会社が署名→自動送金されるため、銀行のサービスを経由して送金を行う必要がありません。同時に支払状況のステータスが更新されるため、送金とトラッキングを同一プラットフォーム上で行えるメリットもあります。

画像
送金とトラッキングを管理することができる
(出典:Built Technologies社HP

ファイナンスを核に建設業界が統合されていく未来

建設業界は複雑な多重下請構造のサプライチェーンから成り立っています。建設に関わる投資金額は大きく、事業会社や金融機関からファイナンスされた資金が、末端の下請会社に行き渡る過程で、膨大な事務作業とコミュニケーションが行われることになります。異なるアングルで見ると、全てのステークホルダーはファイナンスで繋がっているが故に、ファイナンス機能を軸としたプラットフォームの存在意義が大きいとも考えられます。実際、Built Technologiesは、自社のサービスに加えて、Procoreなどのその他の建設業界で主要なサービスと連携し、自らがハブとなり複数のサービスを統合しています。

画像
Built Technologies が連携している他社のサービス
(出典:Built Technologies社HP

建設業界内部の会社だけでなく金融機関やアセットマネジャーなど、他の業界も巻き込み拡大をしている点も特徴的です。これまで建設ファイナンスが抱えていた課題を解決しつつ、他業界からの資金流入を容易にする仕組みを作ることで、建設会社のIT投資増額に寄与し、さらにDXが進んでいく、そのような正の循環を期待します。

著者プロフィール
大江太人
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architects株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。建築士としての専門的知見とビジネスの視点を融合させ、クライアントである経営者の目線に立った建築設計・PM・CM・コンサルティングサービスを提供している。過去の主要プロジェクトとして、「フジマック南麻布本社ビル」「資生堂銀座ビル」「プレミスト志村三丁目」「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」他、生産施設や別荘建築など多数。

Related Journal

建設DX

2023.09.29

ICON ‐ 3Dプリンターによる建設プロセスの革新に挑む

建設DX

2023.06.01

AIを活用したリモート現場管理 – Open Space

建設DX

2022.06.22

オーナー視点がBIMの生み出す価値を変える