Journal /

日本でなぜBIMが普及しないのか日本でなぜBIMが普及しないのか

2018.08.11

Article

日本でなぜBIMが普及しないのか

日本でなぜBIMが普及しないのか

Payetteでのインターン期間中では、詳細設計図のまとめに関わることができた。先述した通り、Payetteは図面は全て完全にBIM(AutodeskのRevit)で描いている。日本の導入の遅れから見ればとても差を感じるのだが、これは何が原因なのだろうか。PayetteがどうやってBIMで全ての図面を描いているのかポイントを挙げながら分析したいと思う。

アメリカの事務所では一般的なのかもしないが、デザインをせずに図面だけ描くというCADオペレーターという概念がない。いわゆる建築設計というデザインする職種の4~5人のチームで5000平米程度のプロジェクトの図面を手分けして描いている。

BIMに触らないのは50代のグループ長クラスの1人だけで、その他の40代以下全員がBIMで図面を手分けして描いている。ただ、全員がRevitのエキスパートかというとそういうわけでもなく、フルBIM化を可能にしているのは、オフィス全体で統一的に用意された万全なサポート体制、日本との図面構成の違い、そして人材のフレキシビリティがあるのだろう。

-万全なサポート体制

BIMと2次元CADとの一番大きな違いは、2次元CADが一つ一つの線を自分で引いていくため手書き図面の延長線上にあるのに対し、BIMは用意された建築部品を配置していって建築図面を作るという点だ。つまり、用意された建築部品(Revitではファミリーと呼ばれる)が充実していればしているほど、そして、その部品を配置するテンプレート(舞台)が整っていれば整っているほど、BIMを扱う技術レベルが低くてもそれなりに使えるのだ。

Payetteはその部品とテンプレートの整備がとにかくしっかりしている。新規プロジェクトを作成したいのであれば図面構成や必要な部品が揃ったものが立ち上がるし、その中で部品を配置していけば良いのだけである。2DCADに慣れた人がBIMに辟易するのが、部品や舞台を整える手間がかかるという点だ。その点が最初からクリアされていれば、実務を行う建築士の手間が大きく省けるわけである。

一方で部品やテンプレートを整えるのにはとてもコストがかかる。それぞれの建築事務所がそれぞれの図面表現のスタイルを持っているので、BIMの中に用意された一般的なものでは足りず、独自のものをイチから整える必要がある。日本の多くの事務所がそこに力を入れていないため、そのしわ寄せが実務を行う建築士に行き、労働量がただ増えてしまうのだ。

Payetteではソフトを使うサポート体制もしっかりしている。ITグループがテンプレートと部品の充実度を常に改善しているし、ITグループではわからないような高度なサポート内容は専門家が週に2回来てサポートする。また、オフィスのほぼ全員がBIMを普段から触れているので、所員同士の助け合いや知識の積み重ねが常に行われ、オフィスが一丸となって技能が向上している。

-図面構成の違い

次のポイントで言えるのが、日本とアメリカの図面構成の違いだ。今回、詳細設計図のまとめに参加したことで、なぜフルBIM化が可能なのかがわかった。PayetteはBIMが不得意な平面詳細図、矩計図は描かない。せいぜい一般図に毛が生えたような拡大平面図・断面図に壁種・ドア種などの記号や部分詳細への引用マークを入れ、あとは部分詳細図をとにかく量を描くことでカバーしている。

ここがとても大きなポイントだ。平面詳細図や矩計図は日本の建築文化においてとても重要な図面であるが、海外では意外と一般的ではない。そのため、平面詳細図や矩計図にパースを組み合わせた「図解 アトリエ・ワン」の本が海外でとても人気があるのかもしれない。

逆に言えば、BIMソフトは日本の図面構成を満足させるようにはそもそも作られてない。Revitならアメリカの建築産業向けに開発されているのが当然だ。得意でないものを無理やりやろうとするのだから、日本では労務量がただ増えるという結果に陥る。

ちなみに、部分詳細図はRevitの中の2DCAD機能(DraftingView)で全て描いている。そこでも部品を配置するというRevitの性格は継承されていて、2Dの自由度がありながらも、効率的に図面を描くことができるように、Payetteは整備している。

-人材のフレキシビリティ

日本でのBIM導入時にあるあるとも言えるのが、図面を描く全ての職種がBIMに対応しないと導入が一気に阻害されてしまうことだ。具体的には建築・設備設計が完全にBIM対応できても、構造設計がBIM対応できないと言ってしまえばそこで導入のメリットが一気に低くなる。

大手組織事務所やゼネコン設計部のように全ての職種が所属する会社で導入が難しいのはこのためだ。例えば構造設計でとても優秀な人がいたとして、その人が「私はBIMをやりません」と言ってしまい、2D対応を許してくれるプロジェクトだけやっていればそれでも何とか生き残れるのだ。そういう人材がBIM導入の足を引っ張り続ける。

Payetteの場合は主に建築設計しか所属していないので、構造・設備・土木のコンサルタントはBIM対応できるところを選んで契約すれば良い。アメリカでは終身雇用ではないので、BIMをやらずにチームに不利益をもたらす人材はただクビにすれば良いので、そういう問題があまり起こらないのだ。

以上のように、今回のインターンでは、図面を全てBIMで描く体制を構築しているPayetteで詳細設計図のまとめに参加したことで、そのノウハウと日本でのBIMの普及のポイントについて分析することができた。BIM導入こそが正義というわけではないが、BIMを使う利点は3Dでいろいろなものの干渉を検証しながら図面を整備できる点、整合した図面を速く描ける点にある。PayetteではBIM普及のおかげで図面作成コスト・時間を削減できているようだ。

逆に言えば、BIMの普及によってBIMで描きやすい建物やディテールがアメリカの新しい建築には増えているようにも感じる。疲れた時に「描きやすいからこれで良いや」という感じでそのまま残してしまう、妥協してしまうということが、竣工まで積み重なっていくとそうなってしまうのかもしれない。BIMの導入によって日本の建築の良さがなくなってしまったらとても悲しい。それはこれからBIMを使う際に常に注意しなければならないことでもある。

確実に言えるのが、新しい技術を常に導入し、仕事のプロセスを改善していくのが、未来の建築産業を担う立場としてあるべき姿だということだ。

Related Journal

Article

2019.06.01

自動運転車(Autonomous Vehicle)の作る未来都市

Article

2019.05.25

万博が都市へ与える影響

Article

2019.03.23

ハーバードから見た日本の現代建築史 -丹下スクールvs篠原スクール その2-