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ハーバード大学デザイン大学院(GSD)とはハーバード大学デザイン大学院(GSD)と…
2018.05.15
GSD留学
ハーバード大学デザイン大学院(GSD)とは
※本記事は、取締役COOの川島がハーバード大学デザイン大学院(GSD)留学時代のブログに一部編集を加え、転載しています。
かの名門のハーバード大学で建築を学びたい!という時に入学を目指す先がGSD(Graduate School of Design)である。その一方で、GSDは単なる建築学校ではなく、デザインで何か面白いことをやりたいという人に広く開かれた学校である。
【学校の特徴】上:GSDの入る”Gund Hall”という建物
なぜ建築ではなく「デザイン」という言葉を標榜しているかというと、地球上にある全てのものをデザインすることを目指しているから、というと大げさではあるが、建築を中心とした人の居住環境のあらゆるスケールのデザインを思考する学校である。アメリカではNo.1の建築学校という評価が名高く、建築に関連するありとあらゆる分野をカバーした、垣根を超えた教育プログラムが特徴だ。
表題の画像は日本の建築学科とGSDのカバーしている分野を比較した画像グラフである。日本の建築学科が建物内部のエンジニアリング志向なのに対し、GSDは建物外部の都市空間や経済原理へ志向している。そのため、日本から見れば建築デザインの分野を極めたい人、建物外部や社会のデザインを極めたい人に最適な学校と言える。
【教育の特徴】上:学生が模型や図面製作をする階段状のワンルームの製図室
GSDの教育課程はスタジオとコースの二種類の授業で構成される。1学期に20単位を取得するのが普通で、スタジオ1つで4単位、コース1つで4単位を取ることができる。そのためスタジオ1つとコース3つ、もしくはスタジオなしでコース5つ取るのが主流だ。
スタジオは指導教官の専門に応じた設計課題が与えられるの対して、学期中の3ヶ月間をかけてリサーチ・デザインを行うもので、学生が学期のうちの殆どの時間と体力を注ぎ込む。
コースは選択肢が多く、レクチャー形式やスタジオに近い形式のものまであり、自身の興味に応じた知識の肉付けが目的になる。自分の専門分野に関係するコースだけ取って先鋭化する人もいれば、なるべく広範囲にコースを取って知識の拡大に勤しむ人もいる。
授業の多様性もさることながら、所属する学生の多様さも特筆すべき点だ。半分は留学生で、異なる40以上の国から学生が集まる。多様な選択肢と多様な人材がクロスオーバーすることで、とても刺激的な学生生活を送ることができるのだ。
【学科の種類】上:あるコースの中間発表の様子
そしてこれからがとても長くなるのだが、以下がGSDのHPにある学科説明の概要で(https://www.gsd.harvard.edu/admissions/)、受験時に選択できる学科のオプションである。大きく分けて種類は2つ。プロフェッショナルディグリーというのが学部卒で入学できるもので、専門学位を取得するために長い期間かかるもの。ポスト・プロフェッショナルディグリーはアメリカの5年制の建築学科を卒業しているか、それ相当の経歴がないと応募できないが、短い期間で卒業できる。平たく言えば、日本の学部卒はプロフェッショナルディグリーに、大学院卒はポスト・プロフェッショナルディグリーに応募することができる。
以下がそれぞれの学科の説明だ。超細かい部分や他の学校とのダブルディグリー、博士課程の説明は割愛する。
◯建築学科
Master in Architecture I (MArch1)
プロフェッショナルディグリーで3.5年-4年で卒業。建築をイチから学ぶことができ、最初の2年間はすべてとてもハードな必修の授業で構成される。GSDで一番人数が多いし、GSDの建築教育の根幹を担っている。
Master in Architecture II (MArch2)
ポストプロフェッショナルディグリーで2年で卒業。建築をずっとやってきた人がさらにマニアックな世界に飛び込むためのプログラムで、授業は全て選択性。GSDの中で一番入学が難しいと言われる。
◯ランドスケープ学科
Master in Landscape Architecture I (MLA1)
プロフェッショナルディグリーで3年で卒業。ランドスケープをイチから学ぶことができ、MArch1と一緒で最初の2年間はとてもハードな必修の授業で構成される。世界最古かつ最高のランドスケープ学科で、日本のみならず世界中からわざわざ学びにくる人が多い。
Master in Landscape Architecture II (MLA2)
ポストプロフェッショナルディグリーで2年で卒業。MArch2と一緒でランドスケープの世界をマニアックに追求するためのプログラムである。授業は全て選択性。
◯都市計画学科
Master in Urban Planning (MUP)
プロフェッショナルディグリーで2年で卒業。1年目は必修が多いが2年目は選択となる。建物のデザインというよりか、社会性・公益性に配慮した政策・社会システムのデザインを行う。デザインのバックグラウンドがなくても入学でき、政府機関や金融系など学生の経歴は様々。
◯都市デザイン学科
Master in Architecture in Urban Design (MAUD)
ポストプロフェッショナルディグリーで2年で卒業。ポストプロフェッショナルディグリーの中で唯一必修のスタジオがあり、1年目はとても大変。自分もここに所属している。都市スケールの建築のデザインのあり方を学ぶ場所で、都市デザイン分野で教育水準は世界一。
◯デザイン学科
Master in Design Studies (MDes)
ポストプロフェッショナルディグリーで2年で卒業。スタジオがない。曖昧なくくりなのはわけがあり、建築・ランドスケープのように単体の専門学位とするほどではないが、建築関連の重要分野が所属。以下のようにコースの種類はかなり多い。自分の今までの実績に関連していることは、デザインのバックグラウンドがなくても入学できる。
– Art, Design and the Public Domain (ADPD)
パプリックアートや社会に対するデザインにフォーカスした分野で、アートや新しいテクノロジーが社会に与える影響の研究、デザインの実践を行う。デザインを軸とした起業をする卒業生が多い。
– Critical Conservation (CC)
建築や文化財の保存に係る分野で、ただ単に保存するのではなく、過去の遺産をどのように現代社会に融合させるかの研究、実践を行う。
– Energy and Environments (EE)
建築から地球スケールまでの資源・エネルギーの循環の研究を行う。日本の建築環境系で行うような、建物の環境・エネルギーシミュレーションも学ぶことができる。
– Hirotory and Philosophy of Design (HPD)
建築や都市デザインの理論や哲学のの追求をする分野で、アメリカ東海岸の理論派の教育風土の根幹を担っている。
– Real Estate and the Built Environment (REBE)
不動産や都市経済についての理論を学ぶ。発注主側のメカニズムを学ぶことによって、投資主体として都市開発や地方再生などのまちづくりの担い手を育成する。ディベロッパーや投資銀行に進む卒業生が多い。
– Risk and Resilience (RR)
都市災害とその対策についてが専門で、どのような都市・社会構造がサステイナブルなのか、世界のあらゆるコンテクストの中で研究を行う。災害大国の日本には不可欠な分野。
– Technology (Tec)
建築生産の最新技術を学ぶ分野で、最近ではVR,ARの利用や、デジタルファブリケーションによる新しい形の実現、AI・ロボティクスなどが研究の主流である。テクノロジー系企業に進む卒業生が多い。
– Urbanism, Landscape, Ecology (ULE)
都市、ランドスケープ、生態系についての研究を行う分野で、地球環境や土地の変遷などを追う分野である。
以上が主要なコースの説明だ。他の特殊なコースや、数年ごとにできあがる新しいコースに関しての最新情報は上記URLのHPを確認することをおすすめする。
【教育の思想】
一貫しているのは「デザイナーであれ」ということに関する要求の高さだ。デザインというのは絵や建物に限らず、システムや理論も含まれる。デザインの力で社会や人の生活をどれだけ良くできるかという点に関して、どこまでも真っ直ぐな学校である。GSDはただの建築学校ではなく、これほどまでに広い分野を学ぶことのできる場所なのだ。