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HOMMA・本間毅氏インタビューHOMMA・本間毅氏インタビュー

2022.07.26

Interview

HOMMA・本間毅氏インタビュー

HOMMA・本間毅氏インタビュー

【はじめに】

今回は、アメリカ・カリフォルニア州シリコンバレーを拠点に、スマートホームビルダーとして事業を展開しているHOMMA Group, Inc. Founder & CEO 本間 毅 氏をお招きしました。

「HOMMA HAUS」のモダンな空間デザインと最先端のテクノロジーによるスマートホーム体験は、日米双方の住宅業界から注目を集めています。「HOMMA HAUS」の特徴やアメリカの住宅事情に、Fortec Architects代表 大江氏と、建設DX研究所所長 岡本が迫ります。

■プロフィール

本間 毅
HOMMA, Inc. Founder & CEO
1974年生まれ。中央大学在学中に起業。1997年にWebインテグレーションを行うイエルネット設立。ピーアイエム株式会社(後にヤフージャパンに売却)の設立にも関わる。2003年ソニー株式会社入社。ネット系事業戦略部門、リテール系新規事業開発等を経て、2008年5月よりアメリカ西海岸に赴任。電子書籍事業の事業戦略に従事。2012年2月楽天株式会社執行役員就任。退任後、シリコンバレーにてHOMMA, Inc.創業。

大江 太人
Fortec Architect株式会社代表
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architect株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。一級建築士。

【デベロッパーとソフトウェア開発、二つの機能を有することが強み】

―― まず、HOMMA, Inc.の事業について教えていただけますか。

本間:スマートホームビルダーとして、二つの機能を持っていることが当社の特徴です。一つ目は、自分たちで土地を仕入れて、住宅を設計し、現地のゼネコンと一緒に家を建てるデベロッパーとしての機能。もう一つが、スマートホームを実現するために必要なソフトウェア・プラットフォームの開発を行う機能です。

スマートホーム機能のビルトインを前提に家づくりをしているので、センサーやスイッチの位置、配線などは、設計段階で決めています。スマートホームに必要なデバイスは、HOMMAの統合プラットフォームでつないで制御します。HOMMAのスマートホームに入居するお客様は、専用アプリをダウンロードし、アカウントを作成するだけで、設定不要でスマートホームの快適性を体験できます。

―― HOMMAのスマートホームには、どのような特徴があるのでしょうか?

本間:従来のスマートホームは、1デバイス1アプリ1ログインが基本なので、デバイスをコントロールするためには、それぞれのアプリをインストールする必要があります。この場合、スマートフォンの画面上もごちゃごちゃしますし、いちいちアプリを開いて操作するのも面倒です。複数のデバイスをスマートスピーカーでコントロールすることは可能ですが、統合作業には手間がかかります。スマートホームと言いながら、実際はスマートとは言い難いものなのです。

HOMMAのスマートホームは、人が操作する必要がありません。住宅内に埋め込まれたセンサーが人の動きを感知し、動きに合わせてデバイスが快適な空間を創ってくれる「Do it for me」をコンセプトにしています。

特徴的な機能は、自動照明制御システムです。例えば、夜になるにつれて照明が暖かい色に変わっていったりと、時間帯によって色や明るさを自動で変えたり、消したりすることができます。2階のベッドルームに移動したら1階のライトが自動で消灯したり、夜中に水を飲みに降りたらキッチンの照明が柔らかい色で点灯したり…といった具合です。毎日の生活の中で、スイッチに触れることはほとんどありません。

ライトの明るさや点灯のタイミングを自分好みに調整したい時には、スマートフォンのアプリを使ってカスタマイズします。すべて自動制御にするのではなく、自分の好きなようにコントロールできる余地も残しています。

勝手に照明のオン・オフをしてくれるので、省エネ効果も期待できます。私自身もHOMMAのスマートホームでしばらく生活しましたが、この暮らしに慣れてしまうと、ホテル滞在中にトイレの電気のスイッチをつけることすら面倒に感じてしまいます。


【スマートホーム体験を多くの人へ届けるために】

―― HOMMA,Inc.で手がけているプロジェクトについても教えていただけますか。

本間:まずは、シリコンバレーの築50年の一戸建てをオフィス兼ラボにリモデルするプロジェクトからスタートしました。試行錯誤から多くの学びを得て、次に一から新築物件「HOMMA ONE」を建てました。これは、モダンなデザインと洗練されたスマートホームテクノロジーを兼ね備えたハイエンドな物件です。

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私たちが拠点を置くシリコンバレーは、コロナ前から「Work from Home」の文化が根付いていたので、「HOMMA ONE」には、最初からリモートワークに適した仕様を取り入れていました。キッチンの横にワーキングスペースを設けたり、ベッドルームにデスクを作りつけたりする試みは、ニューノーマルの先取りをしていたとも言えるでしょう。

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「HOMMA ONE」で住宅の構造や建築のプロセスをある程度理解できたので、これをもっとスケールしていこうと、次にタウン型コミュニティ住宅「HOMMA X(現HOMMA HAUS Mount Tabor)」を建てました。アメリカでは、一戸建てを1軒建てるのに2年ほどかかってしまうのが現状です。ビジネスとして拡大を目指すのはもちろんですが、なるべく多くの人にHOMMA HAUSを届けたいという思いもあり、今回6つの建屋に18世帯が入る集合住宅にチャレンジしました。

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「HOMMA HAUS Mount Tabor」は、都心で生活する若者をターゲットにした「アーバンプレミアムコンパクト」をコンセプトに掲げています。徒歩や自転車で回れる範囲内に、公共交通機関や飲食店、ショッピングセンター、クリニック、公園などがある利便性の高い立地です。その分、土地の価格が高くなってしまうので、コンパクトなサイズにはなりますが、効率的な導線を意識し、広い空間を確保した間取りにしました。さらに住宅のデザイン性と、スマートホームのビルトインでプレミアをつけ、住宅のアフォーダビリティ(住宅の適正住宅費負担・値ごろ感)を高めています。


【メーカーや製品の垣根を超えたコントロールを実現】

―― HOMMAのスマートホームでは、どんなデバイスを採用しているのでしょうか?

本間:「HOMMA HAUS Mount Tabor」は、100平米ほどの住宅なのですが、センサーやライトが60個程度設置されています。このスマートライトと照明の自動制御機能は、アイリスオーヤマさんと共同で開発しました。同社は、もともと無線を使った照明制御システムを店舗やオフィス向けに開発していたので、それと当社のソフトウェアを組み合わせることで、快適かつ省エネを実現した住宅用照明ソリューションが完成しました。

ライトやセンサーはすべてナンバリングし、設置場所をソフトウェアに認識させ、人の動きに合わせて個別にライティングを制御しています。アメリカの建築基準上、スイッチの設置が義務付けられているのですが、実はスイッチもワイヤレスで制御しています。通常の建築の場合、スイッチは配線上に設置する必要がありますが、ワイヤレスなのでどこにつけてもいいですし、取り外しや付け替えも簡単にできます。スイッチや照明の位置まで電線を這わせる必要がないので、省施工も実現しています。

―― ワイヤレスプロダクトは、すでに多く登場しているのでしょうか?

本間:ワイヤレススイッチは近年色々と登場してはいますが、今はバラバラに存在していて、住宅という形でまとまって提供されている状況ではありません。既存の住宅にはすでに配線されたスイッチがあるため、ワイヤレスに変更する必要性は低いです。やはり新築の設計段階からワイヤレスプロダクトを取り入れていくことに意味があると思います。

私たちは、ハードウェアを一から作っていくことはあまりしたくありません。すでに世の中に出回っているものの中から、耐久性と信頼性に優れ、許容できるコストのプロダクトを集めて、そのプロダクトを制御できるソフトウェアを開発していこうと考えています。

―― 照明やスマートロックだけではなく、他のデバイスも統合していく予定ですか?

本間:現段階のスマートホームは、まだ最初のバージョンなので、住宅にビルトインされるライトやスマートロック、ブラインド、エアコンなどからスタートしています。今後はAPIで連携し、家電なども追加した形で、自動制御できるようにしていく予定です。

照明機能はアイリスオーヤマと共同開発を行いましたが、空調はダイキン工業のミニスプリット型エアコンを採用しています。自社でソフトウェアやプラットフォームを開発しているからこそ、拡張性や柔軟性が保てるのです。

―― あえて日本のメーカーと一緒にプロジェクトを進めているのですか?

本間:日本人というバックグラウンドを市場への理解やネットワーク作りには活かしていますが、日本のメーカーをあえて選んでいるわけではありません。今回はアイリスオーヤマがすでにアメリカに進出しており、無線制御の照明システムを持っていたことが共同開発のきっかけになりました。実際に「HOMMA HAUS Mount Tabor」の照明には、アイリスオーヤマだけではなく、他のメーカーの製品も組み合わせて使っています。ペンダントライトやダウンライト、間接照明など、複数の系統のライトをひとつのソフトウェアで自動制御しているのです。

スマートホームの建設に協力してもらっているダイキン工業や、LIXILなどの会社もアメリカに進出し、製造や販売を行っていますが、そういった会社の場合、アメリカの安全規格である「UL認証」の取得がスムーズです。今回の照明システムも、当社の専売ではないので、アイリスオーヤマが他のプロジェクトに活用し、アメリカでの販売を拡大していくことも可能だと思います。

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いかがだったでしょうか。今回は、「スマートホーム」をメインテーマとして、HOMMAが手掛ける最新のスマートホームの概要やスマートホームの核心部分であるソフトウェアやハードウェアを中心にお話を伺いました。

日本でも家具や家電を遠隔で操作するスマートホームサービスが増えてきていますが、センサーを活用して、人が操作する必要がない「Do it for me」というコンセプトを実現している点には非常に驚かされました。

インタビューの後編では、スマートホームで蓄積されたデータの利活用やアメリカと日本の住宅業界の違い、今後の日本におけるビジネス展望など多様なテーマについて触れられているので、是非ご期待ください!

以下、後編

【自社プロジェクトでスマートホームの価値を証明】

―― スマートホームからさまざまなデータも収集可能かと思いますが、今後活用していくアイデアはありますか?

本間:セキュリティの観点とクラウドのデータ容量の関係上、今は積極的にデータログの保管は行っていないませんが、データが収集できることは分かっています。安全で快適なライフスタイルの実現に、データが活用できる可能性も感じています。

まず用途で考えられることと言えば、ホームセキュリティです。HOMMAのスマートホームは人の動きをセンサーで感知しているので、留守宅への侵入もすぐに検知が可能です。

また、住宅にいる時間帯や部屋の使用率などから生活パターンを分析し、その人のライフスタイルを割り出すこともできるでしょう。例えば、ロボット掃除機とAPIで連携し、その人が外出したら、掃除をスタートするといったことも可能かもしれません。

スマートロックもオンラインで管理し、アプリの暗証番号のみで解錠できる仕様になっているので、上手く活用すれば外部との接点を安全にコントロールできます。セキュリティとの兼ね合いはありますが、外出中にハウスキーピングをお願いするようなことも実現できると思います。

―― ニューノーマルになり、スマートホームのニーズも一層高まっていそうです。

本間:新型コロナウィルスの影響で外出が制限されたことによって、アメリカでも多くの人が住宅に目を向けるようになりました。ホームセンターやIKEAが連日賑わうようになり、家の中に、“学校”や“オフィス”、“レストラン”が一気に誕生していきました。家の中を快適にしてQOLを高める流れは今も続いていますが、そこにウッドショックや住宅の供給不足が重なっている状況です。今後もマーケットは変動していくと思いますが、私たちは、スマートハウスを含めた住宅性能の向上やエネルギーの省力化で価値を創造し、住宅業界に貢献していきたいと考えています。

二つ目のプロジェクトで建てた新築住宅「HOMMA ONE」は、6日で買い手がつき、周辺エリアにおいて、過去14年間で最も高い価格で販売することができました。三つ目のプロジェクトである集合住宅の「HOMMA HAUS Mount Tabor」は、周辺相場より11%高い賃料で賃貸に出しても、借り手がついています。

価格を高く設定していると言っても、スマートハウス化のためのコストは、ワイヤレスに対応したプロダクトや設備の導入にかかる差額分だけなので、技術ライセンス料を除くと2%程度しか上がりません。費用対効果やバリューを自社プロジェクトで証明し、今後は、私たちのノウハウとテクノロジーを外部デベロッパーに展開していくライセンスビジネスに挑戦していく予定です。

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【テクノロジーの導入に消極的な姿勢は、日米の住宅業界に共通した課題】

――アメリカと日本の住宅業界にはどんな差がありますか。DXは進んでいるのでしょうか?

本間:日本の住宅設備は、工業化・モジュール化されていて、ユニットバスやキッチンを設置するだけで完了します。アメリカは、カスタムメイドのキッチンをその場で組み上げていったり、お風呂のタイルをコツコツ貼り付けたりと、一から現場で作り上げていくようなものが一般的で、課題は多いと感じています。

マンハッタンの60階建て高層ビルなど、大規模なプロジェクトではBIMも活用されていますが、一般的な住宅ではまだデジタル化も進んでいません。設計と施工を一気通貫で管理するツールもなく、デベロッパーとゼネコンそれぞれでプロジェクトマネジメントを行っている状況です。すべてのデータを一元管理するのが理想ですが、まだそういったツールは登場していません。

これは、日米の住宅業界に共通するかもしれませんが、デジタルやスマートホームへの理解がまだ進んでいなかったり、今まで扱ったことのない新しいものを敬遠する傾向が強いと感じています。積極的にテクノロジーを取り入れていくような業界であれば、私たちがデベロッパーとしてのポジションを確立する必要もなかったと思います。

私たちは、BIMも活用しているので、「デジタル活用やスマートホーム技術を理解できるか」という視点も、ゼネコンを選ぶポイントの一つになっています。スマートホーム化には、通常の建築と比べて手間がかかりますし、正しく指示が伝わるか、現場が管理されているかが重要になります。私たちのノウハウを言語化したマニュアルや一定の教育、エンドツーエンドでのサポートも必要です。そのため、当社の設計メンバーとテクノロジーのチームは現場に何回も足を運んだり、オンラインミーティングを開催したりしています。

ただ、私たちは自分たちで家を建てているので、建築や設計のプロセスを理解した上でのサポートができます。これは、他のIoTスタートアップにはできない私たちの強みですし、今後のライセンスビジネスにも大いに役立つと考えています。

【アメリカで作り込んだテクノロジーを日本でも展開したい】

―― 今後日本ではどのようにビジネスを展開していくお考えですか?

本間:日本には、質の高い住宅を建てられるハウスビルダーや工務店がたくさんあります。日本向けに一定程度ローカライズすれば、当社のノウハウは日本でも十分活用できるので、アメリカでUIやUXを作り込み、スマートホームのテクノロジーを日本でも提供していきたいと考えています。

ただ、スマートホームに価値を感じていただき、その分の費用を負担できるプロジェクトでないと、提供は難しいかもしれません。生活感を大きく変える機能なので、賃貸物件でも、販売物件でも、ハイエンド層に向けたこだわりのある住宅づくりからスタートするべきだと考えています。照明のコントロールやスマートロックは、リゾートホテルでも応用できると感じています。

既存の住宅をリモデルするとなると、配線やライトの埋め込みをすべてやり直す必要があるので、新築やスケルトンリフォームといった案件で、私たちの技術を提供していくのが理想的です。どの程度ニーズがあるのかは未知数ですが、数十戸規模の宅地開発や集合住宅であれば、ぜひ設計段階からご相談いただきたいです。デジタルへの関心が強く、先進的なデザインにもチャレンジしているような、意思を持ったハウスビルダーとのプロジェクトにもポテンシャルを感じています。スマートホームのビルトインを標準で提案してくれるようになったら嬉しいですね。

―― 最後にメッセージをお願いします。

本間:住宅業界は、イノベーティブなテクノロジーの導入に取り組んでいくスピードが遅いと感じています。テクノロジーがさらに成熟すれば、家での体験価値も一層向上していくと予想されるので、住宅業界のデジタル化やスマート化は、積極的に取り組むべき課題だと思います。ただ、テクノロジーを活用できるかどうかは、業界で働く人たちの意識や行動次第です。私たちも積極的に働きかけを行っていきますし、サポートもしていきますので、ぜひ一緒に住宅業界を盛り上げていってほしいです。

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後編では、スマートホームで蓄積されたデータの利活用やアメリカと日本の住宅業界の違い、今後の日本におけるビジネス展望というテーマでお話をうかがいました。

スマートホームで蓄積されたデータを活用することで、より豊かなライフスタイルを送れるイメージが湧き、大変興味深かったです。
今後は日本でもビジネスを展開する予定があるとのことなので、HOMMAの手掛ける最新のスマートホームに触れられる機会を楽しみに待ちたいと思います!!

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