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建築の価値を高めるプラットフォーム的視点建築の価値を高めるプラットフォーム的視点

2021.06.03

建設DX

建築の価値を高めるプラットフォーム的視点

建築の価値を高めるプラットフォーム的視点

空高くそびえ立ちオフィス街にひときわ輝く新社屋、最新技術を駆使しながらもあたたかみのある工場、木のかおりに包まれ、これから家族の歴史を作り出していく住宅_
長い年月大切に使われ、人・街・文化を形作る資産を生み出していくことが、我々建築に携わる人々の使命だと思っています。

初めまして、建築士の大江太人です。
現在、不動産オーナーとして国際Co-livingの運営を行いながら、様々な建築・建設プロジェクトに関わっています。
過去は大手ゼネコンや設計事務所に勤め、住宅・オフィス・商業施設・生産施設などのプロジェクトに関わってきました。当時、「作り手」の視点が強かったですが、転機となったのはMBA(経営学修士)への留学です。MBAでは建築の「使い手」側(=オーナーや経営者)の視点、資産としての側面を学び、建築を作る過程にオーナー視点を取り入れ、建物の価値の最大化を図ることの重要性に気付きました。
現在、自分自身が不動産オーナーとしても活動している中で、完成した建物を効率よく、長期間、運用できることが最も大切であると痛感しています。
これらの経験から、建築業界をより良くしていけるかは、建築に関わる人々がデータとどう向き合っていくかにかかっていると感じました。そこで重要視すべき、プラットフォーム的視点についてお話ししていきます。

【不動産オーナーにとって最も必要なものは建物の情報】

設計事務所、ゼネコン、工務店、専門工事業者をはじめ、多くのステークホルダーにより完成した建物を手にしたクライアントは、不動産オーナーとなり、その後新たな資産としてこれらのオフィスや工場、住宅を運用していきます。そのためには、建物を構成する材料や設備機器などの多くの情報が必要です。
しかしながら、現状の建築業界では、設計・施工・運用の各フェーズにおける情報が適切に管理・蓄積されず、オーナーに建物を引き渡す際に必要な情報が十分に揃っていないという現状があります。
一方、大量生産が基本となる自動車産業などは素材の調達先、製造方法、製造者などが正確な情報として管理されており、オーナーは自分の製品を手に入れたその瞬間から、全ての部品の製造先までメーカーを通して把握することができます。
このように建築業界でも、各ステージを横断してデータを蓄積していくことができれば、今より建物の価値を増大させることができるのですが、これに必要なのが「製品の一生を管理する仕組み」であるプラットフォーム的視点です。

【オーナー視点の欠如により分断された生産プロセス】

前述したように、現在、建築を作るため、また運用するために必要となる情報は、それぞれの段階で分断して取り扱われています。

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設計事務所は、「安全安心の建物」を「遵法性を確保しながら」実現させることが役割です。そのために設計図を作成しますが、施工会社に設計図が受け渡されるまでには膨大な量の検討過程を踏むことになります。壁や床の素材一つ一つの選定にしても合理的な理由があり、これを将来のオーナーが正確に把握することで適切な維持管理を行うことができ、建物の長寿命化に繋がるのです。また、行政との協議を重ねて法に則った建物を作る過程もオーナーにとっては重要です。将来、増築をしたり建物の大改修を行う時に、設計当時にどのような検討・話し合いが行われたのか、記録が残っていることで行政協議をスムーズに行うことができます。しかし、現状はこのような重要な情報が施工会社に引き継がれる記録システムはありません。あくまでも設計図としての最終成果品の受け渡しが主となってしまっています。

また、施工会社は受け取った設計図をもとに、施工図という実際に工事をするための詳細な図面を作成します。この過程で、設計者が選んだ材料や素材が品質・安全上適切か検討を行い、また、自分たち独自で安く調達ができる場合は材料の変更などを提案します。そして、コンクリート、鉄骨、外装、内装といった多数の下請工事会社の協力をもとに、職人の方々が最終的には現場で取り付けを行うのです。
しかし、オーナーの手に渡るデータとなる竣工図面には、基礎に使われたコンクリート、鉄骨一本から電気の配線や照明、クロスに至るまで、誰が取り付けたのか、どこのメーカーのものなのかすぐにはわからない場合が多く、部品の寿命や不具合が起こった際の対処法が把握しづらいのです。

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設計と施工の段階でデータが蓄積されていれば、いつどのようなメンテナンスが必要で、そのコストはどの程度かかるかなど、建物の状況が詳細に把握できます。さらに、どの業者の誰が、それぞれの部分を作ったかという情報が事細かに記録されていると、のちに維持修繕を行うときもそれぞれの不具合に応じて適切な問い合わせ先が瞬時に分かります。
例えば、住宅のオーナーは、いつ空調や配管の更新が必要か、内装の修繕はいつ、いくらくらいのコストがかかるか、などを簡単に把握することができ、将来の計画を立てやすくなります。オフィスのオーナーも建物が古くなった時に、綺麗にリニューアルするためにどこをどのように改修したら有効か、手元に詳細かつ正確な建物情報があれば時間とコストの削減につながります。つまり、オーナーにとって建物そのものの機能に加えて、 データが建物の価値を高める要素になるのです。

【建築データの蓄積が秘める可能性】

建築の一生のデータを一貫して同じプラットフォームで管理することができれば、オーナーが運用にいかすことが容易になることはもちろん、全体のリソースの有効活用に繋がりコストの大幅な圧縮、または新たなサービスへの応用に繋がります。
当然、設計・施工段階段階で情報を適切に蓄積するためには費用はかかります。しかし、建物の運用におけるランニングコストの大きさを考えると費用対効果が高く、オーナーにとって費用を支払う価値があるといえます。つまり、各生産フェーズで情報を集約するプラットフォームがあれば、建築業界に関わる全ステークホルダーが利益を享受することができるのです。プラットフォーム視点は、業界全体を向上させられる可能性を秘めているのではないでしょうか。

■筆者プロフィール
大江 太人
建設DX研究所研究員。一級建築士。東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事、ハーバードビジネススクールMBA修了。竹中工務店で現場監督、設計士として務めた後、プランテックグループの経営に従事。KUROFUNE Design Holdings株式会社を共同創業し、国際Co-livingサービスの開発・運用を行っている。

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