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AIを活用したリモート現場管理 – Open SpaceAIを活用したリモート現場管理 - Op…
2023.06.01
建設DX
AIを活用したリモート現場管理 – Open Space
※本記事は、建設DX研究所の記事に一部編集を加え、転載しています。
建物を建設するプロセスの特徴の一つは、プロジェクトに応じて敷地が異なり、建てられる建物も一品生産であることだと言えます。建材は工場で製造されるケースが多いですが、何万点という建材は各地から現場に運び込まれ、ほぼ全ての組み立て作業が現場で行われます。そのため、建設現場はモノに溢れ、かつ刻一刻と変化しています。
建材(モノ)と取り付ける作業員(ヒト)の流れを適切に管理し、工期内に建物を完成させることは現場作業員の重要な役割です。しかし、昨今の高齢化や、人手不足の問題により、現場を巡回しリアルタイムで状況を把握して指示を出せる現場作業員が急速に足りなくなってきています。元請の施工会社だけでなく、下請会社にとっても深刻な問題となっており、例えば、窓やドアを作るメーカーが部材を製造することはできても、現場で取り付けを指示できる人員が足りず工期の遅延に繋がります。
このような背景から、複数現場を同時に把握し管理することができる、いわゆるリモート現場管理の技術が長年注目を集めてきました。これまで、建設プロセスを把握するためにカメラを設置し遠隔で状況を把握するという技術は発達してきましたが、建設されていく建物内部の隅々にまでカメラを設置することは難しく、リアルタイムでの正確な現場把握は困難とされてきました。
今回は、米国のOpenSpaceというリモート現場管理を実現し建設業界に新たな建設プロセスを導入した企業に注目し、同社の強みと今後の展開について考察したいと思います。
OpenSpaceの創業から資金調達までの流れ
OpenSpaceは2017年にCEOのJeevan Kalanithiらにより共同創業されました。Kalanithi氏はSifteoというキューブ状のデジタル玩具を開発する会社を共同創業し、2014年にドローンのメーカーである3D Roboticsに売却したことでも有名です。その後、同社の社長に就任した彼は、「Site Scan」というドローンを用いた建設現場の撮影サービスを開発・提供しました。しかし、ドローンは屋外の撮影には適していますが、屋内の状況を把握するのは非常に困難であり、また、建設現場に従事する人がドローンの扱いに不慣れであることにも気づきました。そこで、これらの問題を解決するために、2017年にOpenSpaceを創業することに至りました。
360度カメラから得られる視覚的情報を収集し、それを現場管理に活用するというアイデアは画像解析技術の進歩とともにOpenSpaceのメインプロダクトへと発展していきました。従来にはなかった画期的な建設現場マネジメントツールとしてユーザーも増え、2021年春には5500万ドル(約72億円)のシリーズCラウンド、さらに2022年春には1億200万ドル(約132億円)のシリーズDラウンドと急ピッチで大型の資金調達を行っています(現時点での推定企業価値は9億200米ドル(約1170億円))。「建設業界において最も信頼できる情報は視覚的に獲得される画像であり、スプレッドシートや報告書はあくまでも加工された情報にすぎない」とKalanithi氏は語っています。
資金調達だけでなく、大手施工会社とパートナーシップ契約を締結することで、開発の精度と速度をさらに高めようとしています。私たちに身近なニュースとして、2021年1月に清水建設がOpenSpaceとのパートナーシップ締結をプレスリリースしました。その中では、「(清水建設は、)ウィズ・アフターコロナのニューノーマル時代に適応した遠隔管理機能の有用性を確認するとともに、当社の施工ノウハウを活用してソフト機能を拡充することでさらなる生産性向上が見込めると判断し、このたびのパートナーシップ契約締結に至りました。」と書かれています。
日本において、米国で開発された建設業に関連するサービスが本格的に導入されている例はごくわずかです。しかしながら、画像は視覚的情報であり、言語の壁を容易に超えることができるため、世界的に普及するポテンシャルが秘めているのではと推察します。
OpenSpaceによる独自の現場把握システム
OpenSpaceのサービスの根幹は、建設現場内で収集した360度画像を図面上の位置と紐づけて記録する技術です。画像の収集、分析、そして活用方法について、具体的に考察していきます。
現場作業員の動きを活用したリアルタイムな状況把握
Kalanithi氏はドローンで画像収集が難しい屋内の撮影を行うため、360度カメラを現場作業員のヘルメットに固定する方法を編み出しました。
前述した通り、現場作業員は現地の確認を行い指示を出すため、必ず現場内を巡回する必要があります。さらに固定されたカメラと異なり、現場内で新しい壁が立ち上がったとしても、人が通ることで死角なく情報を集めることもできます(360度カメラだけでなくiPhoneなどのデバイスと連携させることも可能となっています)。画像の記録は360度カメラをヘルメットに装着した状態で現場内を移動するだけで完了し、AIが収集画像の撮影位置を特定し、図面上にマッピングされます。
現場作業員の巡回という既存の現場管理システムの中に360度カメラを導入することで、心理的な導入コストを極力低く抑えられることは強みの一つです。
Vision Engineを活用した進化し続ける画像認識システム
カメラを装着し建設現場内を歩き回ると、その軌跡は自動的に計算され、収集された画像は自動補正されて繋ぎ合わされ、図面内に連続した画像として貼り付けられます。「Vision Engineプラットフォーム」と呼ばれるこの処理エンジンは、背後にある3つの技術によって支えられています。
1. Computer Vision: 収集された画像は、AIエンジンが学習し、内容を正確に理解することで、図面内のどこを捉えているのかマッピングすることができます。
2. 3D Reconstruction: 画像の重複部分を分析することで、カメラの正確な位置を把握し、3D情報として足りない部分のデータを補完することができます。そのため、作業員がただ歩き回るだけでも、分析に必要な連続的で鮮明な画像データを獲得することができます。
3. Big Data Visualization: 上記1~2のプロセスを大量に繰り返すことで、AIが進化してより複雑なデータ群をより速く正確に分析できるようになります。
以上の技術を組み合わせることで、既存の現場管理プロセスに極力ストレスを与えない形でのデータ収集を実現しています。
工事工程との連携が可能
現場から収集された生の情報は自動的に分析され、各種工事に対する進捗トラッキングに活用されます。画像情報の自動分析により、「終了していると思われた工程がまだ完了していないこと」「工程の進行状況が予想よりも遅れていることが判明し、迅速な対応が求められること」などを、早期に認知することが可能となります。
この分析の実現には、現場で撮影された写真だけでなく、図面の情報と画像が結び付けられている必要があります。このようなデータが結合されることにより、上述のVision Engineによる画像データ処理が可能となり、この分析を実現することができます。
業界を統合するツールとしての今後の展開
これまで本研究所で紹介したサービスは、いずれも他の建設分野のツールと統合されることで強みを発揮していました。OpenSpaceも例外ではありません。当社が特に得意とするのは、Vision Engineプラットフォームによる図面とシームレス画像の連関技術にあります。
これまでは図面と言えば2Dの平面図や断面図を指していましたが、過去10年間で急速に発達してきた3D図面であるBIM技術との連携も重要な機能となります。
さらに、OpenSpaceは米国の最大手現場管理サービスであるProcoreやAutodeskの進捗管理ツールとの連携も可能です。現場作業員が収集した画像データと進捗情報は、自動的にProcoreなど他のツールに入力され、工事全体のシームレスな管理に利用されます。
建設現場は情報の宝庫であり、一時情報の多くは現場から得られる視覚的情報に含まれていると言っても過言ではありません。この重要な初期情報を獲得し分析する技術を備えたOpenSpaceは、数ある建設業界のサービスの中でも非常に強力なポジションを確立していると言えるのではないでしょうか。
著者プロフィール
大江太人
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architects株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。建築士としての専門的知見とビジネスの視点を融合させ、クライアントである経営者の目線に立った建築設計・PM・CM・コンサルティングサービスを提供している。過去の主要プロジェクトとして、「フジマック南麻布本社ビル」「資生堂銀座ビル」「プレミスト志村三丁目」「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」他、生産施設や別荘建築など多数。