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建築家・浜田晶則氏インタビュー建築家・浜田晶則氏インタビュー
2022.03.04
Interview
建築家・浜田晶則氏インタビュー
目次
※本記事は、建設DX研究所の記事に一部編集を加え、転載しています。
【はじめに】
今回は、博物館や社屋、カフェなど多彩な建築物の設計を手がけながら、アートコレクティブ「チームラボ」のアート作品の制作でも活躍する注目の建築家、浜田晶則氏をお招きしました。
3Dスキャン・AR等の最先端デジタル技術を活用しながら「人と自然環境が共生する新しい建築のあり方」を模索する浜田様の活動に、Fortec Architects代表の大江太人氏と、建設DX研究所所長の岡本が迫ります。
■プロフィール
浜田 晶則
AHA 浜田晶則建築設計事務所代表。teamLab Architectsパートナー
1984年富山県生まれ。2012年東京大学大学院修士課程修了。2012年studio_01共同設立。2014年AHA 浜田晶則建築設計事務所設立。同年よりteamLab Architectsパートナー。2020年Hodgeを共同設立しONEBIENTの宿泊事業を進める。日本女子大学非常勤講師、明治大学兼任講師。大江 太人
東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architect株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。一級建築士。
【コンピュテーショナルデザインでデジタルと建築をつなぐ】
―― まず、簡単に浜田さんの自己紹介をお願いします。
浜田:私は主に、建築設計とデジタルアートのふたつを手がけています。まず、AHA 浜田晶則建築設計事務所では、多様な建築物やインテリアの設計、家具等のプロダクト製作を行っています。また、アートの分野では、チームラボアーキテクツのパートナーとして、チームラボのアート制作に携わっています。コンピュテーショナルデザインの手法を用いた設計の高度化や、空間での体験拡張などが私の専門分野と言えると思います。
―― チームラボでも様々なプロジェクトに関わられているとのことですが、例えばチームラボで手がけた初めての作品はどんなものだったのでしょうか?
浜田:キャナルシティ博多でのLEDを使った「チームラボクリスタルツリー」が、チームラボのメンバーとして、デジタルと巨大なオブジェクトを融合させた初めての作品です。社会人2年目頃に任されたプロジェクトでしたが、ツリー自体の設計はもちろん、「来場者にどんな体験をしてもらうか」というコンセプトの企画からシステム構想まで総合的に携わりました。アプリ制作のエンジニアや映像クリエイターといった専門家約20名と協働し、プロジェクトを進行したことが記憶に残っています。
チームラボクリスタルツリー / teamLab Crystal Tree(2013)
約5万個のLEDを三次元で配置し、光の集合体で創り上げたクリスタルのクリスマスツリー。独自の立体映像システムを搭載しており、スマートフォンのブラウザで選択したオーナメントをツリーに向かってスワイプすると、選んだオーナメントがツリー上にリアルタイムで映し出される。チームラボの大規模建築プロジェクトの出発点となった作品。
https://www.teamlab.art/jp/w/crystaltree/k11-crystaltree/
【自然の素材をそのままコントロールできる時代へ】
―― AHAで手がけられた「Torinosu」プロジェクトについても教えていただけますか。
浜田:「Torinosu」は、家具の素材を探しに飛騨の森に入った時、斜面地で美しい根曲がり木に出合ったことがきっかけで始まったプロジェクトです。根曲がり木は、複雑な形状から一般には流通しておらず、チップに加工されることが多いと聞き、伸びやかで美しいカーブを描いた木をうまく使う方法はないかと考えました。
Torinosu(2020)
渋谷・MIYASHITA PARKのカフェ、「パンとエスプレッソとまちあわせ」の前に設置されている待ち合わせ場所。丸太が相互に支え合い、自立している構造物。
https://aki-hamada.com/projects/torinosu/
浜田:根曲がり木の形状を厳密に扱うために、まず3Dスキャンをし、3Dデータをバーチャルで動かしながら、設計や加工方法を検討しました。その後、ARデバイスである「HoloLens(ホロレンズ)」を利用して3Dデータ上で墨出しを行い、高い木工技術を持つ職人さんや、重いチェーンソーを扱う木こりさんにARゴーグルを装着してもらい、仮想空間上のデータと現実の木材を重ね合わせながら、切断・接合作業を行いました。3Dデータは、3次元モデリングツールのRhinoceros(ライノセラス)のプラグインであるGrasshopper(グラスホッパー)とHoloLensアプリをつないで投影しています。
大江:今までは加工が難しく一般に流通していなかった根曲がり材を活用できるようになると、社会的にもインパクトがありそうですね。今後、活用の道は拓けるのでしょうか。
浜田:そうですね、根曲がり木を自然のままの形で使うことで、製材時に出る廃棄物を減らすことができました。以前、合板2枚から効率的にパーツを取り出してテーブルを製作する「eleven table」という試みにチャレンジしたことがありました。合板2枚だけを使うということと、自由な曲面をつくる試みだったのですが、このプロジェクトでは端材や削りかすが多く出てしまいました。一方「Torinosu」では、丸太の切れ端まで無駄なく使ってプロダクトを製作しています。3DスキャンやAR技術を活用したことで、最小限の操作でゴミを出さずにプロダクトを製作することができた事例です。
eleven table(2016)
11角形平面の住宅の中央に置かれたテーブル。合板2枚から効率的に木取りできるように加工プログラムを設計し、CNCルーターで切削加工した。リング状に加工したパーツを重ね合わせ、研磨し、テーブルが完成した。
https://aki-hamada.com/projects/eleven-table/
大江:以前イタリアにある高級家具メーカーの工場を見学したのですが、そこでは家具の部材を取り出すために、製材された木材をさらに切削していました。良質な家具を作るための過程で生じる必要な無駄と捉えることもできますが、他方、近年では、SDGsへの意識の高まりから、大手企業の経営層の方々などは、家具メーカーの森林伐採による環境への悪影響を気にし始めています。そうしたクライアントに家具メーカー選定の理由をプレゼンする際、コストメリットよりも、環境に優しい家具メーカーであるという説明がより強い訴求力を持つようなケースも増えてきています。
浜田:例えば古い大きな民家では、根曲がり木がアーチ梁としてうまく使われてきましたが、それには根曲がり木を上手く扱える大工さんがいることが必要です。ところが、今ではそうした大工さんが減ってきているので、人間が扱いやすいように画一的な構造の角材へと製材されています。これがいわゆる「工業化」であり、そのように人間が自然を制御する時代が長く続いてきました。ですが、今後はデジタル技術の活用によって、人間が自然の素材を複雑な形のままコントロールできるようになるとよいと思います。それにより、人間と自然とがより高度な共生を実現する時代が訪れるはずです。
―― こうした取り組みが広まっていくためには何が必要でしょうか。
浜田:「Torinosu」は、どちらかというとアートワークに近く、コーヒーカップや皿を置いたり、少し腰をかけたりするようなオブジェクトです。あまり機能的とは言えない一方で、子どもたちが野に帰ったように思わずよじ登ってしまうような、身体性や野性を喚起する存在感が生まれました。「Torinosu」に触れたことで自然に思いを馳せたり、あるいはこうした立体的な身体性を取り戻すきっかけになればと思います。
昔は茶室や住宅にも自然な形そのままの丸太を使うような遊び心があったと思いますが、今はあまり使わないですよね。自然のままの素材がどのぐらい広く普及していくかは予想できませんが、自然物が家の中に入ってくるという体験の価値を、私たち設計者が提示していく必要はあると思います。昔は、複雑な形状の木材を柱や梁として利用していたのですから、構造的な強度や含水率が適正であれば、今の法規にうまく当てはめて建築物に活かすこともできるはずです。製材された木材とは違う、よりプリミティブな素材を使う活動を今後も広めていきたいですね。
いかがだったでしょうか。今回は「人と自然環境が共生する新しい建築のあり方」をメインテーマとして、3Dスキャン・AR等の最先端の技術の活用により自然材の活用・廃材の削減を実現した「Torinosu」の事例等についてお話をうかがいました。
自然の素材を人間が扱いやすい形に加工・規格化する工業化のアプローチが、これまで人類の発展に不可欠であったことは明らかですが、根曲がり木など自然の素材をそのままの形で用いることでもたらされる価値にも改めて気づかされました。
以下後編
【3Dスキャン・AR技術の建築への応用】
――「Torinosu」では、3DスキャンやAR技術も活用されています。建築への応用もはじまっているのでしょうか?
浜田:3Dスキャンに関しては、歴史的建造物のような図面のない建物をスキャンして、3Dデータとして保存し、改修工事や設備更新工事の際に活用する取り組みが進んでいます。図面を起こすのも大切ですが、3Dデータの方がより情報量が多く確実です。AR技術に関しては、墨出しには比較的使いやすいと考えています。
ただ、今の段階では、3Dスキャンも、AR技術も精度が完璧ではありません。特に、根曲がり木のような難易度の高い施工で精度を完璧にするのは至難の業です。そのため、「Torinosu」では、多少ズレたとしても安全に作ることができるように逃げをつくる設計を意識しました。自然のままの素材を使う以上、ある程度の冗長性を持たせることは大事だと思います。
大江:一般的な建築に応用しようとすると、精度の問題が一番のネックになりますよね。今の日本の建築は、ミリ単位の精度で誤差なく建てることが当然とされています。例えば鉄骨が10ミリずれてしまったらそれは大事なわけですが、10ミリのずれがさほど重要でない局面もあるはずです。今は、それらの許容値がすべて一律とされていますが、自然のままの素材を受け入れる許容値がもう少しあれば、AR施工も普及して、自然の素材をDIYのように加工できる可能性が生まれてくると思います。
浜田:例えば、部材数がとても多い建築現場において、画像解析の技術により、ARグラスを通して部材の種類や用途が一目で分かるようになれば、いちいち部材にナンバリングをしなくてよいので現場の施工スピードが大幅アップしますよね。個別の部材にナンバリングがされていなくても、ARグラスが各部材の特徴量を瞬時に解析し、「これはA-1の部材」、「これはA-2の部材」といった情報が表示されるような世界観です。これまでは部材の数をなるべく減らし、規格化していく工業化路線が主流でしたが、もしこうした技術が登場したら、部材が増えても直ちに施工単価が上がることはなくなるかもしれません。このような技術により建築がもっと自由になる可能性を感じます。
どんな大きな建築プロジェクトも、小さな部材が集まってできているものです。部材管理へのAR技術導入は、実現の可能性があると思います。私自身、今は環境負荷が軽い「小さな建築」に可能性を感じていて、より実験的な取り組みをしていきたいと考えています。
【自然エネルギーを利用した没入型のアートヴィラを建築】
―― 「小さな建築」とは、具体的にどんなものでしょうか。今手がけているプロジェクトがあれば教えてください。
浜田:富山、滋賀に小さな宿を作り、運営していくプロジェクトを進めています。建築という守られた環境にありながら、自然と一体化するような没入型の宿泊体験を提供する宿です。富山に開業する予定の「ONEBIENT神通峡」は、富山特有の自然現象をテクノロジーで拡張し、より深く体験できるような場所にしたいと考えています。
ONEBIENT神通峡「雲庭」
人工的に発生させた霧が客室一体をおだやかに囲う「雲庭」。風によって表情を変える雲の中で、客室にいながら、空に浮かぶような体験ができる。
https://onebient.com/
ONEBIENT神通峡「川吟」
客室全体に岩を用いた「川吟」。建物の内外に岩を連続して置くことで、「中」と「外」の境界をなくし、富山の名水が流れる川底で過ごしているような感覚を味わえる。
https://onebient.com/
浜田:「川吟」のヴィラには、自然の石を3Dスキャンしてそのまま置くこともあれば、石の形状データを変形・加工して造形する大型の人工物も置きます。自然と人工物の中間、新しい自然を創り出すような試みです。
ONEBIENT神通峡「宿森」
透明な壁面から太陽光を取り込み、自然との境界がなくなるような体験ができる。いずれのヴィラも人によるサービスは提供しない。利用者がパスコードを入力して宿に入るシステムを採用。
https://onebient.com/
浜田:「宿森」は、屋外と室内の気温や湿度を感知し、窓の開け閉めによる通風や空調を自動運転で行うヴィラです。人がいない時も、自然エネルギーを効率的に使って、ゆるく空調と換気を行い、空気を循環させます。代謝する生命のような建築をつくれないかとチャレンジしています。無人(=人によるサービスがない)の宿なので、存在を意識しないほど、自然に人をサポートしてくれるカームテクノロジーの考えを導入します。そのために自社でリモートコントローラーやシステムも開発しています。空調を高度に制御して、ゆくゆくはその人の好みの温度帯にコントロールするパーソナライズ化も実現したいですね。
―― エネルギーも自給自足するんですね。
浜田:太陽光発電や薪ボイラーなどを利用して、電力は自給自足でまかないます。輻射式冷暖房も完備していますが、エネルギーをなるべく抑えながら快適な環境を維持することを目指しています。薪ボイラーには、地元で間伐した木材を利用する予定です。これまでのリゾートのように、その土地を消費するのではなく、植林なども行いながら、生態系がより豊かになるプロジェクトとして全国に広めていきたいと考えています。
滋賀県大津市に建設予定のヴィラ
2023年春には、滋賀県大津市の山合いにある葛川集落にも開業を予定。レストランは併設せず、パートナーとして一緒に運営に取り組む、山の辺料理の名店「比良山荘」を利用する。
https://onebient.com/
―― すごくおもしろいプロジェクトですね。脱炭素社会の実現を含め、環境問題は日本にいても世界的にも緊急度高く取り組んでいる重要なテーマですが、建築分野からは環境問題にどう貢献できるとお考えですか?
浜田:私は、環境負荷を抑えるために、人が我慢を強いられるような生活を送るというのは持続可能性が低いと思っています。それよりも、自然と高度に共生していく仕組みを考えた方が建設的だと考えています。豊かな体験を大事にすること、なるべく自然エネルギーを利用して環境負荷を抑えること、その双方を追求したいと思っています。例えば、私たちの普段の生活の中で、エネルギーがどこから来て、ゴミがどこで処分されているかを意識することはほぼ無いのではないでしょうか。それだけ、1人1人の環境に対する想像力は乏しくなっている気がします。ですから、「ONEBIENT」では、エネルギーや建築資材等がなるべくその土地で循環できるようなシステムを構築したいと考えています。ここに滞在したお客様が、エネルギーやモノの流れについて考えたり、自然の価値を再認識したりするきっかけになる場所になるといいですね。
【エンドユーザーが設計に参加できるアプリを開発】
―― 最後に、設計に携わる建築家という立場から、建設DXを推進するためのヒントを教えていただきたいです。
浜田:2016年、B2A(馬場兼伸建築設計事務所)の馬場さんから、ご自身の設計ルールをアプリ化して、エンドユーザー自身が小屋を設計できるようにしたいという依頼を受けて、設計シミュレーションアプリ「NSKR」の開発に携わりました。CADは一定の知識を有する専門家が自由に設計を行えるツールですが、「NSKR」は一定の制約の中で、そうした知識が無いユーザーでもある程度まで設計ができるアプリです。
NSKR
自分で領域を決めて柱や壁を入れていき、自分の思い描いた小屋を設計できるオンラインアプリ。構造計算上、抜くことができない柱は選択できないようになっているなど、強度や安全性が担保された小屋をエンドユーザー自身が設計できる。建具や家具の配置もシミュレーション可能。
https://nskr.mattatz.org/
東松山農産物直売所
B2A(馬場兼伸建築設計事務所)が設計。ここで試みた設計ルールを元にNSKRが誕生した。現在ではNSKRを利用した小屋、コンビニ、住居などが建築されている。
http://b2a.jp/completed/%E6%9D%B1%E6%9D%BE%E5%B1%B1%E8%BE%B2%E7%94%A3%E7%89%A9%E7%9B%B4%E5%A3%B2%E6%89%80
浜田:NSKRで製作したデータを工務店が図面にして、現場に規格化された部材が届けば、すぐに施工がはじめられます。設計と施工がルール化されてシームレスにつながることで、コストや施工時間が削減できるのです。また、エンドユーザーが積極的に建築に参加することで、もっと建築は面白くなると思います。比較的工業化に近いプロジェクトなので、自然の素材をそのまま活かす「Torinosu」とは真逆のプロジェクトですが、建築とデジタル技術の融合は、いろいろな方向性からアプローチできると感じています。
今回は、「デジタル技術で、建築はもっと自由になる」というテーマでお話をうかがいました。
ARグラスの活用によって部材へのナンバリングが不要となる近未来、自然と人工物との境界を曖昧にすることで得られる新しい宿泊体験、そして専門知識がなくとも空間設計ができるアプリケーションなど、興味深いテーマが盛りだくさんでしたね。