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プロフェッショナルが変われば社会はもっと良くなるプロフェッショナルが変われば社会はもっと…

2021.10.04

Interview

プロフェッショナルが変われば社会はもっと良くなる

プロフェッショナルが変われば社会はもっと良くなる

Fortec Architects 代表取締役 大江太人(おおえ たいと): 東京大学工学部建築学科において建築家・隈研吾氏に師事した後、株式会社竹中工務店、株式会社プランテック総合計画事務所(設計事務所)・プランテックファシリティーズ(施工会社)取締役、株式会社プランテックアソシエイツ取締役副社長を経て、Fortec Architects株式会社を創業。ハーバードビジネススクールMBA修了。建築士としての専門的知見とビジネスの視点を融合させ、クライアントである経営者の目線に立った建築設計・PM・CM・コンサルティングサービスを提供している。過去の主要プロジェクトとして、「Apple Marunouchi」「Apple Kawasaki」「フジマック南麻布本社ビル」「資生堂銀座ビル」「プレミスト志村三丁目」「ザ・マスターズガーデン横濱上大岡」他、生産施設や別荘建築等、多数。

WealthPark研究所 所長 加藤航介(かとう こうすけ)‐ プレジデント/インベストメント・エバンジェリスト:「すべての人に投資の新しい扉をひらく」ための調査・研究・情報発信を行っている。

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「つくり手の視点と使い手の視点の融合」を目指す

加藤:本日は、設計事務所であるFortec Architects株式会社を創業されたばかりの大江さんと、「プロフェッショナルが変われば社会はもっと良くなる」というテーマでお話させていただきます。Fortec Architectsという専門家集団の「つくり手の視点と使い手の視点の融合」を目指すというお話をお聞きした時に、まさにこれからの時代に求められているコンセプトであると感銘を受けまして、本日の対談を大変に楽しみにしておりました。そのあたりをぜひ掘り下げて伺えればと思います。

私自身は、かつて金融業界でファンドマネージャーという専門職に従事し、先進国・途上国を問わず、世界30カ国で多くの企業経営者とお会いし、優良企業の株式からなるファンドを組成し、お客様へ報告をしておりました。建築士とは全く違う職業専門家であったわけですが、お客様のニーズに合わせた分かりやすい言葉で専門知識を説明すること、そしてお客様視点を取り入れることに対する自分の努力が不十分だったと、今となっては大いに反省しています。お客様の視点が欠けていれば、専門家が持つ知識は社会の役には立っていかない。私が40代を迎えてキャリアの折り返し地点に立った数年前、一般の方向けに本を執筆する機会をいただいたことでそれを痛感し、以降は「使い手の視点」を大切にしようと思いました。大江さんは、建築士という専門職で幅広い実務経験を積んでこられており、Fortec Architects社を満を持して立ち上げられたわけですが、その想いをご紹介いただけませんか?

大江:Fortec Architects創業の想いには、私が建築業界に入ってからずっと感じていた違和感が根底にあるんです。それは、建築家が建物を作っている段階でしかプロジェクトに関わることがなく、その建物がプロジェクト通りにお客様の事業などに貢献できているのかをトラッキングする機会が非常に少なかったことです。建築物は物理的にずっと残りますし、ライフサイクルコスト(建造物がその役割を終えるまでの維持費)がかかるわけですから、環境面、社会面、ファイナンス面など、本来は設計者の背負っている責任は長期に渡るはずです。それなのに、建築業界には「建てられた後」の責任が抜け落ちてしまっていることが問題だと思ったのです。我々はストックを作っているのにも関わらず、実態はフローを追いかけるビジネスになってしまっている、という問題意識を長らく持っていました。

MBA留学を通じて、建物はお客様のストックだという意識を高める

大江:そんな中、建築士として、もっとお客様の、つまりは使い手側の視点を理解したかったこともあり、MBA留学をしてビジネスの多くを学びました。日本の建築教育はデザインやエンジニアリングに寄っていて、例えば、財務諸表を読めない建築家は多いと思います。しかし、社会のストックをつくっている建築士こそ、ビジネスや会計財務の知識を備えておくべきではと思いました。例えば、ある建物を建てれば、それは顧客の会社のバランスシートに計上され、減価償却されていきますよね。そして、一定の年数が経てば修繕やバリューアップという投資が行われながら、その建築物が長期に使われていくことになる。大切なのは、今でなく、将来です。お客様の現在と将来予想されるビジネスプランやリスクを初期に洗い出しておき、初めから建築物に可変性を持たせたり、他の用途へのコンバージョンや売却まで踏まえて建築計画を立てるべきだと思いました。そのようなリテラシーを体系的に学ぶためにはMBA留学はとても役立ち、建物はお客様のストックだという意識を一建築士として大きく高めることができました。

加藤:建築士はそれだけで専門性の高い仕事だと思いますが、さらに一歩進んで、顧客の長期のビジネスや使用価値までをも踏まえた仕事をしてくべきだということですね。確かに、都市計画や大規模な不動産開発案件のような長期的な視点が、街にある1つ1つの小さな建物にまで取り込まれていくのは、社会全体にとって大切だと思います。

大江:不動産開発や大規模建築のプロジェクトでは、不動産会社が資金調達計画を立てた後に、建築士やエンジニアを雇うという、ビジネスと設計が分断されているプロセスが一般的です。一方で、建築知識がある専門家がお客様の参謀として資金調達計画を含むビジネス全体の提案に関わることができ、ビジネスと設計の両者を長期視点で初期から考えていく姿こそが、本来あるべき姿と思います。それでこそ建物の中身について深く理解をしている建築士の専門性が、顧客の利益に変わっていきます。ただし、建築士がビジネスの言語で顧客と話ができなければ、顧客である経営者は建築士に、ビジネス全体の提案を求めることはないでしょう。この関係性を変えるためには、まずつくり手である建築士が、使い手である経営者側と同じ目線と言語で話せるようになる努力が重要ではないか、と思っています。

加藤:なるほど。それが「つくり手の視点と使い手の視点の融合」というコンセプトなんですね。素晴らしいと思います。

建築業界にカスタマーライフタイムバリューの考え方を注入していく

加藤:一方で、芸術的な要素がある建築と、お金が関わるビジネスという、ある意味で対極に位置する視点を一人の個人が併せ持つことは、簡単ではないようにも思いました。例えば、建築士の国家試験にビジネスやファイナンスの科目を入れるとかがスタートなんでしょうか。

大江:試験科目を見直すというのは、面白いアイデアですね。確かに、建築士試験には構造計画や建築計画についてのモノづくりに関わる計画の出題はありますが、これにビジネスに関わる「事業計画」のカテゴリーが加わるだけで、業界の意識は大きく変わるかもしれません。

建築士は一人のデザイナーでもあるので、ビジネス的なことにある程度、盲目的になることは大事なんです。ただし、自分の理想とする建築物をつくりたい、名声を得たいなどの欲求が出すぎてしまうことは、顧客にとってマイナスになります。建築士と顧客の関係性の根底には利益相反があって、それを埋めていくことが大切なんです。

加藤:なるほど。その利益相反を埋めていくためには、お客様と信頼関係を築くための、様々な努力が必要となるのでしょうね。

大江:おっしゃる通りで、そういう努力がお客様と長期的な関係を築ける唯一の方法といえます。実は、現在の私の仕事の半分は「オーナーズ・コンサルティング」と言えるもので、お客様側に立って、設計者や施工者の選定・管理のお手伝いをしています。建築士が不要な建設コストをかけていないのかをモニタリングしたり、その建築物が顧客のビジネスプラン達成にどう貢献するのかを一緒に考えていく仕事です。ビジネス用語で言えば、カスタマーライフタイムバリュー(CLTV)を最大化する仕事、になると思います。建てて売り切ったら建築士の仕事は終わりというワンタイムな視点ではなく、むしろ建て終わってからが建築士の仕事で建物の一生を通して顧客との関係を築いていくという考え方は、これから重要になると思います。

WealthParkさんがやられているようなSaaS(Software as a Service)ビジネスも、CLTVの視点ですよね。SaaSビジネスにおける、CLTVや顧客獲得の考え方は、建築設計事務所にもぜひ取り入れていれていくべきだと思っているんです。オーナーズ・コンサルティングといったアドバイザリー業では、「こういう建物を建てませんか」というワンタイムの付き合いではなく、「そもそも建てるかどうかを一緒に考えていきませんか」のような、ライフタイムを通じた長期的な価値の視点が大切になります。月々のアドバイザリーフィー自体は少額でも、一生のお付き合いができるお客様のプールを大きくしていくSaaSビジネスモデルは、現在の建築設計事務所とは真逆な考え方ですが、より顧客本意な考え方だと思います。

何十年も使い手側の立場にいながら並走させてもらいたい

加藤:弊社の事業にも触れていただき、ありがとうございます。我々もまず顧客であるオーナーの視点に立つということは、とても大事にしていますね。不動産業界に立脚したデジタル化なのか、顧客に立脚したDXなのかというポイントは重要で、我々はオーナー様の目線から業界を見つめ直し、オーナーの「こうなったら便利だ。こうして欲しい」を実現していきたいと考えています。大江さんの考え方は、お客様の視点からのプロフェッショナルの仕事の再定義のように思います。ここ20年ほどと思いますが、世界のトップ企業はパーパス、ビジョン、ミッションを経営戦略の中心において顧客思考を最重要視しており、これからもその傾向は変わらないと見ています。建築設計事務所の仕事の受け方を、いわゆるワンショットではなく、ライフタイムに変えていくというビジネスモデルの再構築も、まさに顧客視点の発想だと思います。

大江:そうですね。例えばある建物が5年に1度の修繕のタイミングが訪れた時に、我々がその仕事を受注する側に選ばれることに拘る必要はないのだと思っています。それよりも、そもそも5年ごとに更新する枠組み自体を一緒に考えたいし、長期視点で最も効率が良くなるようなお手伝いがしたい。そのためには、普段から参謀のように経営者と対話をしていく必要があるんですよね。つくり手として一度きりの付き合いなのか、何十年も使い手側の立場にいながら並走させてもらえるのか。後者こそが、我々が考えている建築士の新しいビジネスモデルだと思います。

加藤:個人的な経験になりますが、以前に自宅マンションの1年交代の理事長を務めたことがありまして、ちょうど初回の長期修繕のタイミングに当たりました。そして、10年以上前にマンションを建てた不動産会社・施工会社と住民の信頼関係が希薄だったため、まず外部コンサルタントを雇用し、1〜2年かけて修繕計画を立ててもらい、その上で施工業者を選定してもらう、という手間をかけたんです。もし、マンションを建てた不動産会社と信頼関係が続いていたら、どれだけ楽だったかと(笑)。不動産・建築業界には、改善の余地があると強く感じました。

大江:おお。まさに今の我々は、その外部コンサルタントの方と同じような仕事も、お受けしていますよ。例えば、500戸の物件を所有する不動産オーナーの方がいらっしゃって、その方からは包括的なアドバイザリー業務を引き受けています。物件毎にどれから修繕の手を付けていくのか、また各物件において「防水が先か、塗装が先か」などの具体的な優先順位を加味して、長期修繕計画を一緒に考えています。同時に、エントランスや外装など建物の顔となる共用部や賃借人の入れ替えに伴う原状回復工事における占有部のバリューアップを考えるなど、長期的なスパンで賃貸経営にも関わります。

この業務を行なっている中で、本来は、その建物を建てた際の一次データを持っている会社が顧客に寄り添っていくのが正しいと感じます。後に別の会社がコンサルタントとして入り、現状を把握し直してサービスを考えるというのは、データ自体も使い捨てになってしまっていて、非常に非効率ですから。結局、建てたものに対して、将来にわたって責任を持つことが、建築家の本質的な役目なんだと思います。ただし、現実には、オーナー側が元の施工会社を信頼しておらず、修繕のタイミングで他の会社を入れて競争させるケースも往々にしてあります。つくり手側の意識が変わり、物件を最も効率よく修繕・運用できる社会が実現すれば、そういったオーナー側の懐疑心もなくなってくると思いますね。

KPIは「優秀な建築家を、安定的に何人雇用できるか」

加藤:業界の課題は、欧米的な合理的な考え方に沿えば、インセンティブの付け方で解決することができるかもしれませんね。私が昔いた金融業界の資産運用アドバイスという仕事でも、同じような問題が議論されています。お客様の老後やお子様、お孫様の代までを考えた資産形成や資産移転には、長期視点が必要とされるにもかかわらず、金融商品を売った瞬間に関係が終わるケースが多いんですよね。欧米では、金融サービスの対価に対する業者と個人のインセンティブ設計が大きく変わってきていて、一回の大きな支払いを受け取るコミッション型から、長期間にわずかなアドバイス料を受け取るフィー型に切り替えがかなり進んでいます。金融業界も設計・建築業界も、売り手側ではなく買い手側の視点に立ったインセンティブ設計が根付くことが求められますよね。建築業界においては、大江さんがおっしゃったような、顧客から「薄く長くフィーをいただく」ようなインセンティブの仕組みを定着させる難しさとは何だと思われますか?

大江:それで言いますと「適切なインセンティブ構造とは?」と考える思考自体が、建築士には浸透していないように思います。理由は、建築士のビジネス上の目標(KPI)が、有名な賞を取るとか、ある雑誌に作品を載せたいといった、デザイナーとして名前を上げていくことに、なっているからでしょうか。そうした賞を取る競争も建築士が切磋琢磨する上では大事なのですが、それはつくり手側の自己満足の世界の中にあるとも考えられます。

もし、私が自分の会社でKPIを一つ設けるとしたら、「優秀な建築家を、安定的に何人雇用できるか」にしたいですかね。それは、100人の優秀なアーキテクトがいるプロフェッショナル集団を維持できれば、現在の建築士業界が応えられていない多くの社会ニーズへ向き合えることができるからです。「何らかの賞を取った」などとは異なる社会的な大きな価値を、プロフェッショナルとして社会に還元できることになると考えます。さらに、顧客とインセンティブを一致させる新しい仕組みを構築できることが理想的ですね。

加藤:なるほど。建築の賞や事務所の売上といった分かりやすい指標をKPIとすることから脱却して、建築士の一人一人が、顧客目線に立った本質的なKPIを設定するという一例ですね。私は、一通りモノが揃った先進国では、個人が人生で本当に成し遂げたいことや、自分にしか社会に提供できない価値に真剣に向き合うことが大切になってくると考えています。また、企業体となればKPIもビジョンもミッションも、経営者の強い想いが込められたものではないとならない。大江さんが紹介された建築事務所の新しいKPIは、同業者からも顧客からも共感を呼ぶものと思います。

なぜ建築設計事務所はスケールアップできないのか、背景を実直に考えたい

大江:実は建築設計事務所は、他の専門家集団のようなスケールアップ(規模の拡大)ができていないんですが、その背景を実直に考えていきたいと思っています。例えば、世界最大の建築設計会社のGenslerでも、雇用されているプロフェッショナルな建築士は約2500人。対して、マッキンゼー・アンド・カンパニーは、9000人以上の専門コンサルタントを擁しています。それこそ、10000人の建築士を抱える事務所を実現できたら、社会の問題解決に大きなインパクトを与えられるだろうと思います。

また、日本の建築業界の課題を考える上で大切なことは、大手ゼネコンの強さです。圧倒的な設計・施工技術と実績を誇る彼らの存在は、スクラップ&ビルドという建築業者側が儲かるカルチャーを、日本に根付かせてしまったと思っています。私は、もともと大手ゼネコンにいましたし、ゼネコンの集結された技術力は、今でも素晴らしいと思っています。ただ、ゼネコンという一括で請け負う特殊な存在は、日本の建築業界において細分化された専門性や顧客思考の土壌が育ちにくかった背景になっていたとも思います。ゼネコンがあまりにも完成されており、かつ力があったゆえ、日本の建築業界は最先端の技術や、長期の顧客思想の導入が遅れてしまっていると思います。

加藤:金融業界とまったく同じ構図に思います。金融でいうゼネコンは、大手銀行や証券会社グループで、グループ全体で全てを請け負う形にこだわったり、金融商品を顧客に回転売買させたりと、まさにスクラップ&ビルドを繰り返してきたのが実態です。この業界慣習は、フィデューシアル・デューティー(真の顧客思考)の観点から大変に問題であり、監督官庁の指導も入り少しずつ変わってきていますが、実態はまだまだ過去の慣習に引っ張られているところがあります。日本は戦後から高度経済成長を経て先進国になりましたが、先進国になった途端に成長がピタリと止まってしまっています。建物や金融商品をスクラップ&ビルドしてはだめで、業界構造自体をスクラップ&ビルドしていかないといけない段階にきているのだと思います。

大江:おっしゃる通りと思います。また、日本の成長が止まってしまった別の理由としては、外国資本や外国人の人材を国内へ受け入れる素地ができなかったことが挙げられると思っています。実は、海外と日本の架け橋になることも、私が起業してやりたかったことの一つなんです。過去に丸の内や川崎にあるApple Storeのプロジェクトを請け負ったのですが、Appleという海外の企業文化を理解し、彼らが表現したいと考えている世界観を、ドメスティックな日本の大企業とコミュニケーションをしながら、一緒にデザインしていきました。これは設計業務でありながら、プロジェクトマネジメント業務でもあって、クライアントである外資系企業側と日本の不動産会社やゼネコン側の間に立って、それぞれの要求を咀嚼して、コンフリクトが起きないようにマネージしていくことには、大きなやりがいを感じました。

海外と日本の架け橋となり、日本の将来を明るくしたい

大江:あと、建築の分野では、日本で働きたいという海外のトップスクールの学生もとても多いんですよ。ファイナンスの分野だったら、ニューヨークと東京に就労の機会があったら、加藤さんのようにニューヨークを選びますよね(笑)。日本の建築のレベルは世界からも高く評価されていて、建築士として最も権威のあるプリツカー賞の受賞者も、実は、日本人が一番多いんです。ただ、漫画やアニメなどの文化は海外とのビジネス上の繋がりが強くなっていったのに対し、建築では海外ビジネスを上手に取り込めていない実態があり、個人的には大変残念に思っています。だからこそ、建築士として先のApple社とのプロジェクトのように外国資本が日本に投資しやすい環境を手助けしていったり、東京や日本で働きたい多様な建築士を呼び込める環境作りにも貢献したいと考えます。我々は、日本の人口が減っていく時代に向き合っていく世代です。日本の将来を明るくするためには、海外との架け橋としての仕事を積極的に引き受けていきたいです。

加藤:とてもよく分かります。社内で「投資って、本当にすばらしい!」という勉強会を定期開催しているのですが、その一つの柱となる考え方として、お金や人材がダイナミックに国境を超えて動かないと、特に先進国となった国はそれ以上は豊かにならないというテーマを取り上げました。自国をえこひいきする閉鎖的な考え方を貫くことは、大きな視点で見ると自国にとってマイナスになるということです。世界各国の国際収支統計を、貿易に関係するカレント・アカウントと、投資に関連するファイナンシャル・アカウントで見ていくと、新興国は貿易で儲けるというフロー面が重要です。一方、先進国になると、ストックとそこから生み出されるフローが重要になってきます。つまり、自国の企業や不動産などに他国からどれだけ投資をしてもらえるのか、そして自国から海外の事業や資産にどれだけ投資をしていけるのか、その合わせ技で個人も企業も国も「優良なバランスシートを作る」という発想が大切になります。これは平成の時代に日本がやっておくべき宿題でもあったのですが、日本人にはフローからストックへの、豊かさのマインドセットの切り替えをする必要があると思います。これからの働き盛りの人は、よりグローバルな投資にアンテナを張ったり、多様な資本や人材の中で活躍の場を探すことが大切だと思います。

「オーナー側のビジネスの視点で建築を考える」ことができるチームにしたい

加藤:最後に、大江さんが作られていきたいアーキテクト集団という「チーム」についてお伺いさせてください。大江さんのビジョンに賛同する方であれば国籍や年齢、性別も関係ないということだと理解していますが、どのようなチームを作られていきたいとお思いですか?

大江:はい。「オーナー側のビジネスの視点で建築を考える」ことはチーム全員で強く共有していきたいです。建築物のディテールやデザインなどのアウトプットにこだわるなどの職人的な生きがいも大切だとは思うのですが、より顧客に寄り添えるチームをつくっていきたいです。例えば、物流工場の建築計画を立案するといった仕事は、地味でデザイン的な要素は少ないのですが、顧客にとってはビジネスに直結する大切な案件です。そして、そのような仕事を通じてオーナー様と信頼関係を築くことで、本社ビルや研究施設や、またはご自宅や別荘などといった、デザイナー個人としてのブランディングに繋がる仕事を任せていただける可能性が出てくるんです。私の経験からも、そういうことは過去、沢山ありました。つまり、縁の下の力持ち的な仕事が実はオーナー様にとって一番大切であり、顧客の総合的なウェルスマネジメントの一環を担わせていただいているということを、つくり手として常に意識できるチームを作っていきたいと思います。そうしたチームを土台として、長い期間に渡ってアドバイザリー報酬などを積み重ねていく、建築業界の新しいストックビジネスモデルを実現していきたいと思います。

加藤:これは業界を問わずですが、オーナー側の視点を持つとは、多くの場合、長期の視点を持つということに帰結すると考えます。

大江:オーナーの視点で建築物をつくることは、これからの時代の大きな潮流になると思うんですよね。昔の建築家の役割とは宗教空間を作ること、つまりその当時の文化や哲学を表現することでした。パトロンと共に、宗教文化の世界観を具現化することが、建築家の役割だったわけです。ではその現代版はというと、経営者とビジネスを一緒につくる、ということなんじゃないかなと思うんです。なので、建築家としてビジネスマインドを磨き、自身の専門知識を社会に還元することを目指していきたいと思います。

加藤:建築士というプロフェッショナルとして、どのように社会に貢献していくかの意気込みをお聞きし、沢山の勇気をいただきました。我々WealthParkも、世界で最大の資産クラスである不動産を、デジタルの力でより個人に開放していくことにより、人々と社会がより密接に結びつく、豊かで幸せな新しい世の中を作っていきたいと思っています。投資や資産運用を正しく理解して活用することは、社会と個人の豊かさと幸せに大きく影響することに疑いはありません。投資という古くて新しい人類の発明を、オーナー側の視点に立って社会の役に立つように再定義していきたいと思います。本日はありがとうございました。

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